見出し画像

三鷹跨線橋の記憶と記録を残そうプロジェクト、始めます。

 JR三鷹駅を西に400メートルほど進んだ線路にかかる跨線橋(こせんきょう)の解体が始まる日まで、残りわずかとなりました。

 通称・三鷹跨線橋ーー正式名称は「三鷹跨線人道橋」といい、昭和4年(1929年)に当時の鉄道省が電車庫を建設した際に、線路をまたいでの人の通行のために設置したものです。
 人間にたとえるなら御年94歳。サビで剥がれた塗装が醸す紋様や、角のとれた石混じりの古いコンクリートの階段が、長い年月を耐えてきた味わいと迫力を醸し出しています。

全長93メートル、幅約3メートル、高さ約5メートル。15線ほどある線路を南北にまたぐ形で架かり、これほど長い跨線橋は珍しい。
撮影/三坂修二

 中央線や東西線などの列車が車庫を出入りする様を「地上5メートル」の近さで一望できる”撮り鉄スポット”として愛され、三鷹に暮らした作家・太宰治も好んだという逸話から太宰文学ファンにとっても特別な思い入れがあるこの跨線橋。また、地域の住民にとっては、通勤や通学に使う歩道橋、子どもや愛犬と楽しむ散歩道としても親しむ「日常風景の一部」でしたが、老朽化が進み、取り壊しの決定がJR東日本より発表されたのが2021年9月のことでした。 

 具体的にいつから撤去工事が始まるのか、その時期については長らく公表されていませんでしたが、2023年10月にそれが2カ月後であることが発表されました。

 以後、平日休日問わず、この風景にお別れを告げようと跨線橋を訪れる人の姿が後を絶ちません。三鷹市が企画した「渡り納め」のイベントには、なんと4,000人から応募があったそうです。

 そして、ついに撤去が決まったというニュースにいち早く反応したのが、跨線橋から徒歩1分ほどの場所に本社を置き、出版・印刷業を営む株式会社文伸の社長、川井伸夫さんです。

 これまでも井の頭公園の100周年記念書籍を制作・出版するなど地域に根ざした取り組みに力を入れてきた同社は、跨線橋撤去の方針が決まった2年前に、「地域の歴史的・文化的財産である三鷹跨線橋の記憶と記録を残す書籍を発行する」という宣言を発表。いよいよ撤去工事が目前に迫ったことを受け、川井さんが発起人となって「三鷹跨線橋の記憶と記録を残そうプロジェクト」が発足しました。

「三鷹の記憶と記録を残そうプロジェクト」を立ち上げた株式会社文伸社長の川井伸夫さん
撮影/キッチンミノル

 今後、三鷹跨線橋の解体前の姿を記録した貴重な写真や、市民それぞれの記憶に刻まれた思い出、建築や鉄道、文学などの各界の専門家による解説などを編纂した書籍の発行を目指し、このnoteで記事を公開していきます(月2回更新予定)。ぜひフォローをいただけますと幸いです。

 発起人の文伸社長・川井伸夫さんにプロジェクトに込めた想いを、本プロジェクト書籍編集長を拝命した宮本恵理子がインタビューしました。

ーーあらためて、「三鷹跨線橋の記憶と記録を残そうプロジェクト」を立ち上げようと考えた動機を教えてください。

 解体が決定した2年前には、一市民として「なんとか残せないのか」という感情が先に立って、市議に直接お話を伺いに行きました。
 保全には莫大な金額がかかるからという理由で取り壊されてしまうことに対しては寂しさばかりが募りましたが、解体が決定してしまった以上は三鷹跨線橋の記憶と記録を後世に残すためにできることを考えようと一念発起。幼い頃から跨線橋に親しんだ記憶がある当社会長も「三鷹の出版社としてぜひやるべきだ」と同じ想いでした。

文伸の恒例行事、社員みんなで参加する月初の清掃活動。12月初めには感謝を込めて三鷹跨線橋の周辺を清掃した
撮影/キッチンミノル

 その後、着工の予定も詳しく知らされないまま月日が過ぎる中、社員が毎朝の出勤時に同じ場所から跨線橋を「定点撮影」する活動など、少しずつできることは続けていましたが、2カ月前に突如「12月に撤去工事開始」が発表されたときには正直焦りました。
 ご協力いただけそうな方々に急いでお声がけして、とにかく撤去前にやるべき取材・撮影を進めているところです。たとえば、この記事のヘッダーをはじめ、三鷹跨線橋で撮りだめた美しい風景写真をご提供いただいたのは、三鷹在住の写真家・三坂修二さんです。普段は自動車の広告写真などでご活躍されています。「跨線橋は古い鉄ならではの風合いと迫力がカッコイイ」と被写体としての魅力を教えてくださいました。

撮影/三坂修二

 着工まで待ったなしですので、毎日走りながら考えている状態ですが、動き始めてみると「跨線橋についてこんな話ができる」「あの人にも声をかけてみるといい」と情報を寄せてくださる方と次々に出会うことができ、一つのムーブメントが生まれている実感があります。

ーー12月3日には、解体を前に三鷹跨線橋に集まる方々のために、急遽、特製の写真パネルを制作して、隣接する広場で展示イベントも開催したそうですね。また、解体工事開始前日となる10日にも同様のイベントを予定しているとのこと。これまでにどんな反応が返ってきていますか?

 写真パネルは、当社の社員が定点撮影してきた写真のほか、2021年11月に開設したFacebookグループ「跨線橋の思い出」に投稿いただいた写真の中からセレクトした作品を見やすいサイズに印刷したものです。

 「一人ひとりの胸の中にある跨線橋の思い出を、皆さんで共有できるように」と大きく引き伸ばしてパネルにして並べてみたところ、想像以上に多くの方が足を止めてくださって、「きれいだね」「こんな風景もあったんだね」と口々に感想を交換し合う様子が見られ、とても嬉しくなりました。

 私たちは地域に根ざした印刷業から始まった会社なのですが、この仕事の意味や価値を再認識することができ、会社のキャッチコピーとして掲げている「『人に伝える・人とつながる』をお手伝い」の原点に立ち返ることができました。

2023年11月26日(日)、三鷹市民の疋野(ひきの)輝紀さんの企画により三鷹跨線橋のたもとで開催された「親子で楽しむ鉄道イベント〜みたか跨線橋ありがとう」での写真展示の様子。 
撮影/鈴木智哉

 そもそもこの展示をしようと思い立ったのも、11月末に同じ広場で親子向けイベントを開催していたある市民の方の熱い想いに触れたことがきっかけだったんです。「電車好きの息子が跨線橋が大好きでよく通っていた。今までありがとう、と感謝を伝えたくていても立ってもいられませんでした」と、子どもたちが楽しめるプラレールの演出も準備され、素晴らしい地域貢献のご姿勢だなと胸が熱くなりました。 

https://note.com/preview/n40f935806635?prev_access_key=70c0145d0f4a07678393ac0704659176

 私たちも何か協力できればと考え、写真パネルの印刷提供を申し出たところ大変喜んでくださって、来場の皆さんにも好評いただけましたので、想いをつなぐ意味でパネル展示を継続できるイベントを自社企画として開催することにしました。
 三鷹跨線橋南側の階段を降りてすぐの広場にて、12月10日(日)の12時〜16時30分にもイベントを予定していますので、お気軽にお立ち寄りいただけたらと思います(※記事の最後に詳細をご案内します)。

ーー川井さんご自身の「三鷹跨線橋の記憶」となるエピソードを教えてください。

 実は私自身は成人するまで府中で過ごしましたので、子ども時代に跨線橋を頻繁に通っていたような記憶はありません。ただ、電車は好きでしたので、中央線の線路に長くて古い跨線橋があることは知っていました。より身近な存在になったのは、家業を継ぐために三鷹に暮らし、働くようになった20年前からです。
 以来、私の仕事と生活の風景の中にあたりまえのようにあり続けたのが跨線橋でしたが、心に残る思い出のシーンを一つ挙げるとしたら「虹」です。

 3年前の2020年、三鷹駅が開業90周年を迎えたタイミングで地域のリーダーの皆さんを集めて「何か面白いことをして地域を盛り上げられないか」とアイディアを持ち寄る会合を開いたことがありました。
 武蔵野市と三鷹市の境をまたぐ三鷹駅の特色を生かして、「市境である玉川上水を中心にして”綱引き”をやりましょうよ!」と提案して盛り上がったのですが、新型コロナウイルスの影響によって残念ながら実現はしませんでした。
 気持ちが落ち込みかけていた6月のある日、ザッと夕立ちが降った後に晴れ間が出た直後、「もしかしたら」と跨線橋の階段を駆け上がってみたら、跨線橋から見える大空に息を飲むほどきれいな虹がかかっていたんです。

 「No Rain, No Rainbow」ーー雨が降らなければ、虹はかからない。
 どんなときも私の心を支えてくれるメッセージを受け取った気がしました。


 生涯忘れられない風景を私に見せてくれた三鷹跨線橋に感謝をしています。そして、この感謝を形にして恩返しするためにも「三鷹跨線橋の記憶と記録を残そうプロジェクト」は2024年9月頃の書籍出版を目指して、これから準備を進めていきます。
 三鷹跨線橋それ自体はなくなってしまいますが、私たちの記憶を永遠に残せる1冊を必ずお届けできるように、一生懸命取り組んでまいります。

三鷹跨線橋を通るお散歩コースが大のお気に入りというMOKUくん。
撮影/キッチンミノル

 また、プロジェクトを応援していただける皆さまに向けて、先行予約特典を用意してのクラウドファンディングも予定しております。
 このような取り組み自体が初めてで冷や汗をかくことだらけで、これからも多くの方のお力をいただくこととなると思います。どうか温かく見守りいただけますよう、よろしくお願いいたします。 そして、これを読んでいただいている皆さまの「三鷹跨線橋の思い出」もぜひお寄せください。

三鷹跨線橋の思い出や写真をFacebookグループで募集しています。投稿をお待ちしています!

撮影/キッチンミノル


※三鷹跨線橋が残してくれた記憶と記録を次世代に伝える当プロジェクトの書籍制作・発行をご支援いただける個人・法人のスポンサー様を募集しております。詳細は下記までお問い合わせください。
株式会社文伸 出版事業部 武藤
TEL: 0422-60-2211
E-mail : office@bun-shin.co.jp

 
文責/三鷹跨線橋の記憶と記録を残そうプロジェクト
編集・取材・執筆/宮本恵理子

撤去直前となる12月10日(日)には、三鷹市に本社を置く出版社・文伸の主催によるイベントが開催予定(※天候により、内容が変更になる場合もあります)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?