見出し画像

【資産運用】長期投資はリスクを低減するのか?


長期投資はリスクを低減するのか?

世間では、長期投資はリスクを低減するという言説が広く流布されているが、これは正しいのだろうか?

NISA界隈でも、分散された投資信託への積み立てにより長期投資すること(分散・つみたて・長期投資)が推奨されているため、長期投資は何となく安全な投資手法のように思い込んでいる方が多いように思う。

しかし、少し冷静になって考えればわかるとおり、長期投資とは、それだけ長く資産を株式市場という不確実な場に晒し続けることに他ならず、リスクが増加することはあっても低減することは無いはずである。

長期投資はリスクを低減するという言説の例として、下記のようなグラフをよく見かける。

このグラフは、保有期間別の年平均収益率を表しており、保有年数が長くなるほど棒グラフの長さが短くなっていて、この事実から、長期投資することで収益が安定するとの解説が行われている。

思わずなるほど!と納得してしまいそうな説明であるが、これにはカラクリがある。

みずほ証券. 2023. “はじめる、あなたの資産つくりー長期投資のススメ”

実は、ここで示されているのは、長期投資した場合の累積リスクそのものはなく、それを年数で割った平均値、すなわち年平均リスクが示されているに過ぎないのだ。

毎年の収益率は年に依ってプラスやマイナスに大きく振れるが、それらを平均した値(年平均リスク)は、集計期間を延ばせば延ばすほど、真の平均値に近づいていく。これは、統計学において大数の法則と呼ばれている現象であり、何ら目新しいことではない。

サイコロに例えると、一回振るごとに1~6の値が満遍なく出現するが、それらを平均するとサイコロを振る回数が増えるほど、真の平均値3.5に近づいていくのと同様の現象である。

しかし、我々が本当に知りたいのは、計算上の値である年平均リスクなどではなく、長期投資した場合の累積リスクそのもののはずだ。

長期投資でリスクは増加してしまう

では、長期投資した場合の累積リスクは、どのような値になるのであろうか?

計算式の説明は割愛するが、簡単な統計学の知識では、累積リスクは運用年数の平方根(√運用年数)に比例して増加する。

グラフは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の外国株式のリスク設定σ=24.9%で計算した結果である。1年運用では24.9%のリスクが、10年運用では78.6%のリスクに増加している。

長期投資でリスクは増加するのだ。

別記事で示した長期投資のシミュレーション結果も同様の結果となっている。

なお、グラフでは、年平均リスクも同時に示しているが、こちらは、運用年数の平方根(√運用年数)には反比例して減少している。

三鷹 台. 本書社. 2023. "資産運用の新常識"

なぜ長期投資は推奨されるのか?

長期投資でリスクは増加するのだとしたら、なぜ、長期投資は推奨されるのだろうか?

その答えは明白で、複利効果で資産を増やすためには長期投資をする以外の選択肢が無いからだ。

勝つか負けるか、やってみないとわからないギャンブルを除けば、真っ当な株式投資で得られるリターンの平均値は、せいぜい数%がいいところだ。我々が資産を形成するには、長期投資をおこなう必要があるのだ。

長期投資でリターンを増やす代償としてリスクも増加してしまうが、それは投資家が甘んじて受け入れなければならない代償なのだ。

※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
また本記事は、特定の商品、サービス、手法を推奨しているわけではありません。特定の個人、団体を誹謗中傷する意図もありません。
本記事を参考にして損害が生じても、一切の責任は負いかねます。すべて自己責任でお願い致します。


お金の教科書

もっと詳しく知りたい方は、拙著『資産運用の新常識』を参照ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?