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「それをやってはいけない」と神様から言われた話 #一歩踏み出した先に

ねえ、何か嫌なことされたら、やり返す? やり返さない? やり返したらどうなると思う?


「やり返した」人が体験した不思議な話を元に創作しました。

※ この記事は宗教とは関係がありません。

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黒歴史

ある日、会社員Aは、同じ課で働く同僚Bが自分の悪口を言っていたことに気が付いた。どうして気が付いたのかの詳細は省くが、思い込みや勘違いではないことは確実で。

しかも、仕事でBに話した内容を、悪意から大きく改変し「Aってこんなこと言っているんだよ。こんなこと言うようじゃ、まだまだダメだね。わかってないね」と他の課の人に広めていたのだ。

そんなこと一言も言っていない!

Aは激怒したが、悪口を言われたことに気づいたのが、かなり遅かったこともあって、今更Bに反論する手立てを思いつかなかった。Bは自分が悪口を言っていたことをAに知られたとは夢にも思っていない。


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「私さ、もう本当に腹が立って。」

Aは私にそう打ち明けながら、顔をしかめた。

「だって、Bって悪口言っている本人にそれを知られちゃうくらいだからさ、全体的にユルイところがあって。仕事もミスばっかりでさ、私がずーーーーっとフォローしてきたんだよ。口では“感謝している”って言ってくれていたのに。だからこそ、上司にも内緒にしてあげていたのに。

でも“感謝している”が口先だけだったって知ってさ、心が折れちゃって。

もういいやって思って、上司に“Bのことで相談があります”ってタイトルでメールを書いたの。今までBがしたミスの中で、上司が最も問題視しそうなものを二つ選んで、詳細を暴露したのよ。Bから来たミスを告白するメールを証拠として添付してさ。」

後悔

Aは金曜日の夜にメールした。そしてその夜から3日間くらい、自己嫌悪でほとんど眠れなかったそうだ。

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“私は陰湿な仕返しをしてしまった!

確かに仕事上のミスの多さを上司に相談することは悪いことではなくて、むしろ必要なことだったかもしれない。でも、それはあくまでも「より良い仕事をしていくために」やることであって「やり返す」ためにすることではないのだ。公私混同。

また、上司に相談するのなら、Bが傷つかないように配慮しながらミスも減らせるよう、言葉も選ぶべきだった。

どうしよう…。Bは評価を下げられるのではないか? もし評価を下げられたら、プライドの高いBは退職してしまうかも…。 

そこまでのことを、本当に望んでいた?

バチが当たるかもしれない(自分勝手な心配だけど)”

Aはそう思って泣いて泣いて泣きまくった。

仕返しの結果

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そして月曜の朝を迎えた。

上司から返信はなかった。終日上司もBも普段と全く変わりのない態度。

Aが暴露したBのミスはスルーできる類(たぐい)のものではないので、おかしいな?と思いつつも、A自身にも後ろめたい気持ちがあったので、心のどこかでホッとしていた。

火曜日になっても水曜日になっても、返信は来ないし、何も起こらなかった。

さすがに返信が何日も来ないのは、おかしいのでは? やっぱり内容が陰湿だから返信しないのだろうか? それにしては態度が変わらなすぎる…。

不思議に思ったAは、とりあえず自分が送信したメールをもう一度読んでみようと思って、送信ボックスをクリックした。

…上司に送ったメールはどこにもなかった。

間違って「下書き」に入っているのでは?と思って確認したけれど、そこにはなかった。

ゴミ箱にもなかった。

メール全体を対象として、検索ボックスに、上司に書いたメールに頻発させた単語をいくつか入れてみたけれど、ヒットしない。

メールはどこにもない。本当にどこにもないのだ。「送信しました」という表示を確かに見たのに。

メールは上司には届かなかった。いや、最初から、送ることすらできなかったのだ。

恨みの念でつながること

「メールはどこに行ったと思う?」

Aはじっと私の目を見て言った。鳥肌が立つのが分かる。私が無言で首を振ると

「神様のところに行ったんだよ。どんな理由があったって、あんなメール、送っちゃいけなかったんだ。だから神様が回収してくれた。私は神様に守られたんだよ」。

神様はAにバチを当てるのではなく、Aを守ってくれた。

あのままメールが届いていたら。BはAのことを、ニコニコして自分のミスのフォローしながら、陰でこっそり上司に言いつけた卑怯な人と見なすだろう。

Aに対して、強い恨みの念を持つのではないか? 恨みの念でAとBは繋がってしまうのではないか? それはAにとって良いことではない気がする。

「私は目に見えないものを信じているから、そういうのが怖いよ」

柔らかい言葉でAに伝えてみた。

Aは大きくうなづきながら、

「私ね、あれから自分のことをよくよく振り返ってみたんだ。いくら悪口言われたからって、全く関係ないことを上司に言いつけるなんて、フツーじゃないよね。どうしてそんな陰湿なことをしてしまったのか?

それは私の性質に陰湿で幼稚なところがあるからだよね。それを受け入れた上で。どうやってそれを直して成長していけばいいんだろう? これからも、自分に嫌なことをしてくる人は必ず現れる。その人たちと、どう付き合っていけばいいんだろう?

答えはまだ出ないけれど、私は初めて自分と向き合えたのだと思う。

それまでの私は自覚していなかっただけで、精神的に不安定だった。でも、このときのことで、神様から守られているのだと思うようになって安心したからか、今は心身ともに健やかに生きているよ」

その後Aは“自分が繰り返しBのミスのフォローをする”ことのないよう、Bがミスしたときは、Bと二人でその原因を考え、再発防止策を練るようになった。

それを繰り返していくうちに、Bのミスも減り、何よりも“自分はミスを繰り返していて、Aにフォローしてもらっている”自覚をBが持ってくれるようになった。

「もうBから悪口は言われていないと思うよ。言われていても、気にしないけどね」

そう言ってAは笑った。

***

やり返したら後悔した。後悔したら新しい世界へ行けた。新しい世界は広かった。

三田綾子













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