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マスター~回想録~vol.8

この時期になるといつも思い出す。

ロビーには、いつご用意してくださったのか、
大きな花瓶いっぱいの生け花

年始の朝礼である。
つい先日まで、
父方の実家大分で、お餅とみかんをたらふく食べて、
温泉につかって、熱燗を嗜んでいたのだ、
不謹慎ではあるが、頭と体はなまりになまっていた。

ただ、支店長のお話しだけは覚えている。  

よく、野球に例えてお話をされるが、
「勝つチームには、勝つ雰囲気がある」
ということだった、

試合前に対峙したとき、そこで悟ってしまうこともあるそうだ。

勝つ雰囲気づくりのためにも、
準備の大切さ、気構えの大切さを説かれ、
そして何より、チームワークを大切にしよう
というお話だった。

約15年ほど前、私はとある銀行に採用して頂いた。
それも、喫茶ペナントでマスターに頂いたご縁から、
採用試験を受けてみようと思ったからであった。

自己分析も、試験対策も皆無であった。
SPIは脳波か何かを調べられるもの、
インターンという言葉は玄関のピンポン、
つまり、飛び込み営業の訓練のことかと思っていた。

リクルーターの方々の後押し虚しく、
一度、最終面接で不採用になった。
当然の結果だ。

リクルーターのリーダーの方が、
そのことを伝えに来てくださったが、
私以上に、落ち込んでいた。

「どう?もう一回チャレンジしてみない?」

「はい」

次の日だったか、何日か後だったか
もう一度チャンスをいただいた。

面接の前、今はロータリーになってしまったが、
東京駅の丸の内口の空き地に座って、
何度も何度も、伝える練習をした。

おかげで、日焼けで顔は真っ赤だった。
春の紫外線は侮れない。

赤面で再チャレンジのあと、
別室で待機していると、

先に結果を聞いたのであろう
リクルーターの方々が口々に歓喜の雄たけびを上げていた。
「よっしゃー!」、「うおおっ!」、「やったー!」

私よりも喜んでくれる 、
こんなに人のために熱くなれる方々と一緒に仕事ができるなら❢
それが一番うれしかった。

今でも、丸の内のロータリーを通ると、
そこに座っている自分がよみがえってくる。

配属は岡山支店。
通知が届いたとき、
私は、東京にある「大岡山」の間違いではないか?
と思って、
人事に「誤植です」と連絡しそうになったが、
調べたところ、大岡山に支店はなかった。

配属の岡山支店の支店長は、
同じ大学の野球部ご出身、
元甲子園球児でもある。
柔和な印象の中にも、凛と筋の通った厳しさも感じられる、
さすがリーダーという感じであった。

まずは、新人は、ロビーでの研修から
ロビーでのお客様誘導から。

私以外の二人は背が高く、体が大きい、
そして、3人とも意味不明に胸板が厚く、
やる気と、期待も相まって、胸がはちきれんばかりだった。
お客様も時期的に新人だとはわかっていながら、
さぞ、恐ろしい銀行だと思ったに違いない。

わたしは
個人のお客様向けの営業部署に配属で、
事務方を一通り学ばせていただいた後、
店頭ブースで接客だった。

本当に何も知らずに入行したので、
定期預金も知らない。

10万円から?
満期が来るまで下せない?
そんな手荒なことをするのか?
当時は本気でそう思った。

学生時代、部活でアルバイトもろくにできなかったためか、
10万円というお金は、今でいうと100万円くらいに感じたのかもしれない。
かといって、今100万円を10万円に感じることは決してない。

初めて、定期預金のお申し込みをしていただいたとき、
その事務手続きを自分一人でできたとき、
何とも言えぬうれしさがあった。

15:00を過ぎると受付業務は終了、
ブースで事務仕事と、電話営業だ。

そうこうしていると、
店の奥の方から、法人担当の営業の先輩たちが、
順番にロビーにやってきて、缶コーヒーを買っていく。

その後も、定期的にやってくるのだが、
「この人たちどんだけ、コーヒー飲むねん」
と心の中でつぶやいていた。

居心地が悪いのかな?
そんなに飲んだら、胃に穴が開きますよ…

いや、ちがう。
そんなに飲めるのは、
きっとすでに穴が開いているからに違いない。
とか、くだらないことを考えていた。

さておき、
私は、その後、コーヒーを飲みまくる部署に異動になった。
さては、心の声が聞かれていたのかもしれない。

缶コーヒーに飽きた私の心には、
「あー、マスターのコーヒー飲みてー」

あの、ちょっと酸味がある感じの、
薄くてアメリカンどころじゃないんだけど、
なんだか、飲みたくなる。

どおりで、ペナントには社会人が多いんだ。。
社会で辛酸をなめると、酸っぱいコーヒーが飲みたくなるんだ。。
そんなアホなことを考えていた。

私には、マスターのそのコーヒーの味は再現できないが、
少なくとも、お世話になった方々、マスターに恥ずかしくない、
明るく、一生懸命に丁寧な仕事をしようと思う。

MITA FLAG 店主 飯田 将嗣

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