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第3回 履修登録とコース再編


大学あるある話(エピソード)

 大学に進学して直ちに取り組まなければならない履修登録は、誰もが極度に緊張する体験かもしれない。小・中・高において教科科目の履修登録を児童や生徒に取り組ませているという学校は、寡聞にして一部の大学附属高校しか聞いたことがない。そんな高校であっても、履修指導は担任や進路指導主事が積極的に関わっており、生徒は先生の指示の下でマークシート上の所定の部分を塗り潰して提出するだけの作業だそうである。したがって、学ぶ者が主体的に取り組むための一つの方法として大学において実施される履修登録は、大学進学後に初めて体験すると言って良いだろう。
 一方で、昨今の大学特にFラン大学と呼ばれる学校においては、「学部再編」や「(コース再編を含む)カリキュラム再編」を常に検討している状況にある。肯定的に言えば、刻々と変化する現代社会のニーズに沿うよう大学教育を展開するために、大学として努力している結果であると言える。このうち「学部再編」は文部科学省に届け出て認めてもらう必要があるため、大学が取り組む課題としては大事の部類となるから、その再編を意図する場合は数年前からオープンキャンパスや大学説明会等を通じて周知することが少なくない。そのため比較的小事となる「コース再編」「カリキュラム再編」が行なわれる頻度は高くなる。下手をすると自分が在籍する段階で複数の新旧のカリキュラムを確認できるといった事態に遭遇する。
 このような履修登録とコース再編の狭間で遭遇したエピソードについて、今回はFさんとGくんに登場いただくことにしよう。

Fさんの場合「取りたい科目が重複していて・・・」

 私の研究室にFさんが来室したのは入学式前日に行なわれたオリエンテーションが終わった後であった。彼女は事前に関係部局から配信されていた履修登録マニュアルと学生ハンドブックの該当箇所の印刷物、自分で作成した時間割表を持参する程度に当時から優秀だった。
 さて、このFさんが質問したことは凡そ次のような内容である。オリエンテーションに参加したときに必修科目は出来るだけ早く合格を得られるように履修登録すべきということ、また教養科目は卒業年次である4年生までに所定の単位数を獲得すればよいと考えて取りこぼす学生が少なくないことが重要であると理解し、Webシラバス検索を利用して時間割を組んでみたところ必修科目と重複するコマが多いことに気づいた。さらにシラバスには1年次必修科目と明示されているため1年次に合格しなければ自動的に留年することになるのではないかと心配になって来室した、である。
 Fさんにとっては恥ずかしい・ハズい思い出かもしれないが、このとき彼女が関連して理解しておく内容は何だったのだろうか。

Gくんの場合「指示どおりに履修登録しようとしたのに・・・」

 一方のGくんの方は、旧カリキュラム対象の学生であった。教員になるという夢があり、この年に実習することも決まっていたため、昨年度不合格になった科目で合格を勝ち取り、教員免許取得に一歩近づけたいという抱負を聞いていた。
 さて、このGくんが私の元を尋ねて来て言うには、教職課程教室の担当者の指示を受け、そのとおりにWebシラバスを検索したところ、履修登録せよと指導を受けた講座科目がヒットしなかったり、昨年度不合格となった科目の単位がどうしても必要なのだが、その講座科目を担当する教員(担当教員)が交代していることに気づいたりしたのが、履修登録しても問題ないかということであった。ちなみに担当教員が同じであれば、昨年度のノート等が再利用できるだろうとの淡い期待があると告白したので、𠮟りつけたことは言うまでもない。
 Gくんが履修登録にあたって意識すべきことは何だったのだろうか。

所見

 履修登録について押さえておくべき点はFさんが既に述べてくれている。ここでは文系大学において学士号を取得するための一般的な枠組み・条件すなわち卒業要件を中心に説明しておくことにする。大学のカリキュラム上、一般に学士号を取得するために必要な単位数としては124単位とされる。そして、1科目2単位が基本とされ、その1科目は15回の講義をもって構成するとされている。そのため理論上というか神の声としては、予習2時間、講義2時間(実質90分または105分)および復習2時間と想定されているから、2単位取得するためには90時間の学びが必要であるということになる。反論は無駄である。
 次にカリキュラムについては、必ず全員が修得すべき「必修科目」と、修得しなければならないが選択の余地を残す「選択必修科目」がある。学年毎に配当されているが、その学年次に必ず取得しなければならないと条件を課す大学は少ない。但し、進級要件とされている場合があるので、詳細は所属する大学学部の履修要項を確認されたい。
 この履修登録について、以前は授業開始前の段階で履修登録させていたが、最近では第1週目の授業後に履修登録期間を設ける大学が多い。履修希望者が多い場合には適正規模に修正するため抽選をする羽目となって再手続となる手間を省くためとも、シラバスを確認しないで講義に臨む学生が多く「こんなはずじゃなかった」と慌てさせないために第1週目を体験させた上での方が再手続をさせずに済むためとも言われることがある。やや後ろ向きな理由ばかりを聞くのでテンションが下がるかもしれないが、そうであるからこそ第1回の授業に必ず出席することが重要であると言える。
 ちなみに、履修登録期間が経過すると、履修登録確認期間が用意されていることが少なくない。この期間に一旦登録した科目の取り消しができる。GPAなどへの影響を考慮した措置なのであるが、取り消したからといって別の科目への代替が認められるわけではない。原則、その学期に取得できる単位数が減ることを承知したうえで取り消すことになる。
 担当教員が年度毎に交代するという場合がないわけではないし、何らかの事情で担当教員が変更になることは当然に想定される。令和の大学生になる皆さんにとっては、担当教員が交代すると以前の内容が使えなくなると心配されるかもしれない。実際、以前はそういうものであった。なぜならば、講座の看板は同じであっても担当教員の価値観や考え方が一貫して示される授業だったからである。そのため「正しい憲法を教えてください」「司法試験向けの講義をやってください」などと真顔で迫る受講生が存在した。これも可怪しい話ではあるが。
 しかしながら、最近の大学における講義では、価値観や考え方が多様であることを前提に展開されることが多い。中には「これが絶対である」と押し付け的な教員がいないわけでもないが、そのとおりにしなければ単位を認定しないというレベルの強権的な教員は左遷されるので安心して欲しい。そして、多様な価値観や考え方が存在するという前提の中で、このようにも考えられるし、あのようにも考えられるという様々な視点を学ぶことを通じて一人ひとりに修得して欲しいことが示されているはずなので、それを基準に履修登録を進めて欲しい。

ポイント

 私と話をした後にFさんが苦笑してしまったことは想像に難くない。ちなみに、1年次の必修科目を優先的に履修登録し、自分が履修したい科目は後回しにするという形で11科目22単位の登録を終え、春学期はフル単で通過。秋学期以降に自分が履修したい科目を履修登録できたというふうに順風満帆な大学生活を過ごして卒業していった。ちなみに、ある時に私の講義を受講してくれた事があって、履修したい科目だったのかと尋ね、卒業要件上必要だったからですと意地悪な回答をもらい、二人で笑ったこともあった。
 ポイントは、必修科目というように修得しなければならない科目を優先して登録し、残余の単位数分を自分の履修したい科目に充てる形で履修登録を終えることにある。一つ一つの科目を取りこぼさなければ、学期を経るごとに自分の選択できる単位数が増えていく。逆に不合格科目が増えれば増えるほど自分の選択できる単位数が減っていくことになる。こうすることによって学生に対して「単位の取得と真面目に向き合う」ように仕向けているわけである。ちなみに、大学学部によっては再履修科目のみ履修上限単位数に算入しないという「禁じ手」を採用しているところがある。所属する大学学部の履修要項を確認されたい。
 Gくんが意識すべきだったことは、担当教員の交代ではなく、その新旧のシラバスの比較分析である。最近の大学では過去数年分のシラバスについても参照を認めるところが少なくないし、担当教員によっては講義計画表を適宜配布している。そのため過去のものと何が同じで何が違うのかについては自分で確認できる環境がある。ちなみに、前の担当教員から引き継ぐ場合、当年の講義内容については昨年度のシラバスを参照しながら自分の領域分を加える形で若干の修正を加えて作成することが多い。それは再履修者対策というよりは、カリキュラムポリシー(CP)に沿っているはずの従来のシラバスを前提とすることによって、CPを外さない講義の実践を保障できると期待されるためである。

タスク・課題

 履修登録については前述したとおりのポイントを押さえて、一人ひとりが自分で取り組むことを努力目標に、時には同級生と情報を出しあって合理的な選択をしていって欲しい。これは令和の大学生になる皆さんであっても、それ以前の大学生であった私たちであっても変わらない。
 一方、コース再編については同情するところがないわけではない。私たちが大学生であった頃と比べて、令和の大学生になる皆さんには「大学卒業後に到達しておいて欲しい社会人像」が文字化して示され、突き付けられているからである。社会から大学生に対する要求は、一昔前に人材派遣企業や人材育成企業に対して突き付けられていた内容と同じように私には感じられるところが大いにある。要するに、潜在的な即戦力・即応力を有する「はず」の人材を求めているのである。
 大学の社会貢献と言えば聞こえは良いかもしれないが、それは大学として、その都度社会から要求される内容の即戦力・即応力に応じた大学生を育て上げて社会へ送り出さなければならないことを意味している。CPに照らしてシラバスが作成され、その集合体がその大学のカリキュラム全体を構成するわけであるから、そのカリキュラムを経た大学生は、その大学が日本社会に適する社会人の卵であるとして送り出すプログラムであると当然に評価される。したがって、社会人として社会的に認められる令和の大学生を送り出すためには、その都度社会から要求される内容を吟味し、必要に応じてコースを再編し、そのカリキュラムを最適化する必要がある。
 自分の所属する学部にどんなコースが設置されており、それがどんな社会人を育て上げることを目標にしているか。できるだけ早い段階から、ここまでの情報を検討しておくことが望ましい。

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