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真冬の蝶

昨日、窓口に来た、初めて会う女性から聞いた話。

去年の10月、自宅の庭の山椒の木に、アゲハ蝶のサナギが付いていることに気がついた。
サナギのままでは冬を越すことはできないと、女性はかわいそうに思って、サナギが付いた枝を手折り、家の中で育てることにした。

そして、ついに今年の2月、サナギから美しいアゲハ蝶が羽化した。
突然、羽化したアゲハ蝶に、女性はパニックになり、慌てて市役所に育て方を問い合わせたところ、たまたま私が電話に出たそうだ。

わたしはそこまで聞いて思い出した。そのとき、同じ市内に住む、蝶に詳しい人を女性に紹介したのだ。

女性はその人から育て方を教えてもらい、羽化した蝶を大切に育てたそうだ。
レモンの木を買って家に置いたり、スポーツドリンクを与えたり。

その甲斐あって、アゲハ蝶の寿命は自然界では約2週間のところ、女性の家で育てた蝶は35日間も生きたそうだ。

最期は、懸命に羽ばたこうと、羽を常にバタバタさせるため、鱗粉が落ちて羽が透けて見えるほどになりながら、命が尽きていく様子に、女性はとても感動したそうだ。

蝶に詳しい人を紹介してもらえたから、こんなに感動する体験ができました、と女性はお礼を言いに来てくれたのだ。

昨日はちょうど訪問診療日で、わたしが夫の最期のときを深く考える日にもなったため、わざわざ窓口にお礼を言いに来てくれた女性と、蝶と、不思議なご縁を感じた一日となった。

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