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初めてのトランポリン

ぽっちゃり体型、唐突に運動したい欲が湧くが一週間くらいでやめてしまうという夫の現象を、私は密かに通り雨と呼んでいる。
お互い夕方まで休みの時間が被っていたある日の夫が言った。
「トランポリンしに行こう」
私は通り雨に遭うこととなった。



トランポリン初体験である。
運動してると聞かれたら堂々と「徒歩のみ」と答えるくらい運動不足の私は、とにかく怪我をしないように努めることにした。
着地した時に膝に負荷がかかりそうだったし、足をくじきそうだったので準備運動ではそこを念入りに動かしておく。
ネットで簡単に調べたところ、太ももや腹筋などの下半身と、特に背中の筋肉痛に初心者は見舞わられるらしく、準備では予防のしようがないので了解!と思った。


行った先はファミリー向けのトランポリン場。
体育館くらいの大きさの室内にいろんなサイズのトランポリンや、ボルダリング、下はスポンジでいっぱいのお子様にこにこSASUKEみたいなアスレチックなど、アトラクションがまとまっていた。

我々は準備運動を念入りにし、エリアに入り、まず、子供一人に懐かれた。
とにかくうちの夫は子供に初見で懐かれる、というか遊ばれる。
彼は自販機と同じ身長で程よい肉付き、顔は可愛らしい深海魚そのものなので、小さなお友達には夫が何かしらのゆるキャラに見えるのだろう。ほぼハンギョドンである。

その少年は常にそばにいてくれて、私たちが移動しようとすると「今度はこっち!?」と先回りして手招きしてくれる。RPGの案内キャラみたいになっていた。
そのあとは「こうやって遊ぶんだよ!」と見本を見せてくれるので私は心の中で「チュートリアル」と呟き、少年が楽しくなっちゃって我々を置いてけぼりにし何度も手本を繰り返すのを見て私はリセマラを思い出した。


トランポリンは高めに跳ぶことはとりあえずすぐできた。
一度膝をついて基本姿勢に戻るのもできる。
次のレベルは背中で受けて戻るというものだった。

けどこれは相当な恐怖心が襲うので失敗し、トランポリンの上で横たえるように転んだ。
怪我しないように全身を使ってトランポリンに体を沈めて、ぽよんと少し上に弾かれた時、その反動で首だけがしなる。
ほんの少し首を痛めた。
私はそれは聞いてないなと思った。
なぜネットで「トランポリン 筋肉痛 どこ」と調べたのか。必要なのは「トランポリン 怪我 どこ」だったのに。あんたバカァ!?

私は怪我の危険を察知したのですぐに立ち上がらなくてはならない。
でもトランポリンのぼいんぼいんの余韻で初心者の私は手こずった。
その隙に誰かが同じトランポリンで遊び出した。
そう、あの案内役の少年である。

にっこにこで少年が跳ぶ度に私は陸に打ち上げられた魚のように跳ね、手足でもがく様は死に損ないのゴキブリ、首だけは荒れ狂うあかべこ状態。次は病院に案内してくれるんですか?
ただ自分が今どうなっていてどうなってしまうのかわけがわからなくなっていたので私の思考もどうかなっていて、私はこの時が一番楽しく感じた。

少年が安全に跳んでくれたおかげで怪我なく無事に生還。
その日私は首を守ることに終始していたので、次の日しっかり筋肉痛になっていた。
さらに次の日、筋肉痛になっていたのは腕だった。
トランポリンから何度も這い上がったからだろうか。
私はこれも聞いてないなと思った。


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