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2024年冬ドラマ総括 ~ 時空を超える快楽と哀感

 今日は3月最終日。冬ドラマのクールも無事終了したようだ。個人的には今期はほとんど観たいものがなかったのだが、まちがいなく日本のドラマの歴史に残る作品もあり、忘れられないシーズンとなった。

 前にも期待を書いた朝ドラの「ブギウギ」(NHK)は、主人公、福来スズ子趣里は、細い身体で体当たりの演技で頑張ったが、ドラマ自体は残念ながら失速で終了である。「ラッパと娘」のフルバージョンには喝采を送ったが、その後も音楽の力だけで押し切ったように思う。前半の歌劇団でのエピソード、「ラッパと娘」誕生秘話などはよかったが、内縁の夫、愛助(水上恒司)との蜜月話が2か月間にもわたっており、歌を歌っていないスズ子にはあまり魅力はないので、明らかに引っ張りすぎであった。後の美空ひばりとの関係をどう描くか、話題になっていたけれど最後まで調整していたのだろうか。後半の構成はかなり場当たり的に感じた。             主人公をのぞいて一番良かったのは、羽鳥善一を演じた草彅剛で、セリフ回しだけは相変わらず困ったものだが(笑)、天才特有のアウェイな感じははまり役だった(「ラッパと娘」でのあの楽し気な指揮ぶり ! ) 。羽鳥のモデル、服部良一氏と笠木シズ子は名コンビ。当時の写真を見ると、いつもの弾けそうな笑顔の笠木の側にポーカーフェイスの服部がおり、同行二人といった様子でほほえましい。この二人の同志的な関わりをもっと見たかった。そうそう、オープニングだけは最後までなじめませんでしたね。今、昔の朝ドラ「あぐり」(1997年)がようやく動画配信されるようになり楽しんで観ているのだが、このオープニングの素朴な美しさには心から癒される。ドラマも奇をてらったところがないけれど佳作。こういうのを待っているのだけれど。

 大河ドラマ「光る君へ」(NHK)とはまだまだお付き合いが続くが、面白く観て毎週楽しみにしている。なぜかというと、結局のところ平安時代の文化や風俗などが新鮮で興味をそそるからである。予習で今まで関心のなかった本を手に取るようになったのも、普段は見ない解説系ユーチューブをチェックしているのも、私の場合はこれが大きいように思う。                                            それでは話の筋はというと、道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子)の恋の道行の話は、もう終わるはずだがたいがいにしてほしい。この二人は先週までで3週にわたって夜中に逢引きしているが、民放の恋愛ドラマじゃあるまいし、これで胸キュンする視聴者はいるのか(いるのかもね)。二人が最初に結ばれた夜、別れ際の吉高の風情は完全に「事後の貌(かお)」で、こんなものを映してよいのかいなNHKは、とギョッとしたが、そのあとの「悲しくても嬉しくても泣く」いうまひろのセリフに情感がなく、かえって差し引きゼロになった(笑)。また、道長を超イケメンにしなかったおかげで、このシーンもイヤらしく感じなかった・・こんなことを狙ったキャスティングではないと思うけれども。                            このシーンを描くより、寛和の変をもっとサスペンスフルに描いてくれたらよかったと思う大河ファンは、私だけではなかろう。ゴッド・ファーザー藤原兼家(好演 段田安則 大河の「トメ」は感無量です)が言うとおり、「藤原家の命運のかかった」2時間をジリジリと過ごすところ、また道兼(玉置玲央)のヒールぶり、花山天皇(本郷奏多)のその後の乱脈はこれからなのかもしれないが、もっと重厚に観たかった。                    今日の夜からは、いよいよ才色兼備の後の中宮定子が登場するようだが、演者が「とと姉ちゃん」かあ、と正直思わないでもない。個人的には紫式部の何倍も好きな清少納言(ファーストサマーウイカ)の活躍に期待しよう。「香炉峰の雪」楽しみにしていますわ。

 さて、今期の横綱はもちろん「不適切にもほどがある」(TBS)、略して「#ふてほど」である。私はなんでもかんでも省略して呼びたがる最近の風潮がキライなのであるが、この番組のおかげで「ハッシュタグをつけて検索しやすいように4文字で呼ぶ」ことの意味を知り、なるほどと思った。でもやっぱり極力しないけど(笑)。この番組には、いろいろとドラマやバラエティ番組制作の内輪話が出て来て、ドラマファンには大変勉強になりました。「インティマシー・コーディネーター」とか、ご苦労も多いんですね。視聴者として今後の参考にさせていただきます(笑)。
 この番組、最初はただただケラケラと笑って観ていた。ミュージカルシーンになじめない、という人も多かったようだが、あれで小川先生(阿部サダヲ)が教壇から説教を始めるような、それこそ昭和ドラマの作りならすぐ視聴者に反発されるので緩和のつもりかと思っていた。楽しんで観ていたが、「不倫」とその次の「ゴミ出し」チェック、妊活女子へのハラスメントの話はどうもリアル過ぎて笑えなかったのは、歌が少なかったからかもしれない。                                途中までは、このドラマは最近のまた閉塞しかかった世のムードを吹き飛ばしてくれる快作だと思っていた(なお「解説放送版」で観るとおかしさ倍増ですのでお薦めです)。ところが、小川家の父子があの大震災で命を落とす運命にあることが知らされた時点で「ズドーン」ときたのである。やってくれたな、クドカン。その後の純子(河合優実)渚(仲里依紗)のシーン、涙なしには観られなくなったじゃないか。記憶にもあまりない亡くなった母親に「頑張っていてエラいじゃん」「大丈夫、きっとうまくいくよ」とできれば頭をなでてほしいと思う渚の気持ち、現実には母親には傷口に塩を塗るようなことを言われることもあるのだが(経験です・笑)、それも生きて目の前にいてくれるからこそである。渚が未来に来た純子に青春の思い出を作ろうとしてあげたシーン、美容師ナオキ(岡田将生)との展開如何では自分が生まれなくなる危険もあるのだが、無事に大団円。「ローヤの休日」のオチには笑ってしまった。もちろん、ナオキもこの日一日だけは純子が好きになっていたのよね。                                クドカンは最近のドラマでは出てこなくなった、「家族」の意味を真正面から取り上げている。このところのドラマはなぜか赤の他人が肩を寄せ合って生きる疑似家族ものが多く、家族が出てきたと思ったら毒親ばかり。血のつながりがある、それだけで家族は大切で守らなければならない愛おしい存在ではないのか。そんなメッセージをこのドラマからも感じとることができる。
 演者はみな、はまり役だったが、なんといってもブレイクした純子河合優実であろう。しょっぱなのスケバンもどきを見て、これから全編この子が出てくるのか、と思ったがどんどん魅力的になっていく。斜め上を見上げた目のあたりが百恵ちゃんにそっくりで懐かしかった。向坂サカエ吉田羊ムッチ先輩磯村勇斗のことは、今回初めてよいと思った。吉田羊は、風貌からインテリ女性やキャリアウーマン役が多いがちょっと微妙だと思っていたが、この人間味のある役柄は良さが出ている。磯村勇斗は他番組で「ジルベール」なんてやめてほしいわ、だったのだが、今回はいろいろな顔を見せくれた。                              そして、大熱演の小川市郎こと阿部サダヲである。今時、いったい誰がこの、普段は脱力していてイイカゲンだけど時に熱い男を演じられるいうのか。感心するシーンはいろいろあるが、先の家族の話にも関連して、彼が純子や渚を抱きしめるときににじみ出る深い情愛は感涙ものであり、さすが名優だと痛感した。
 終わり方は難しいだろうと思っていたが、たしかに「伏線は全部回収しなくてもよい」と思うので、タイム・トラベルの謎だけ解ければよい。最後に小川先生が、迷いながらもエイヤっと時空のトンネルの中に飛び込むシーンは、未来につながる期待や希望、不安を前にすることの象徴として、これから新年度を迎える私たちにとっても、心に残るエンディングであったと思う(なお、未来の井上として唐突に小野武彦が出てきたが、本当は板東英二にしたかったんじゃなかろうかとつい思ってしまった)。全10回、本当に楽しませてもらった。間違いなく、ドラマの歴史に刻まれる名作であろう。

 さあ、明日から新年度。新生活の始まりでまた良きドラマに出会いたいものです。