ice cream_13

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暗がりの中、中央分離帯に佇んで、誰かと話しているらしい。

俯角から撮影されている映像。

スマホの画面を通じて、手に取るように認識できる。

「よっこらせっと−−−」

茂木が側で、どかっと腰をおろして、ため息を着く。

「最近掛け声かけないと座れなくなっちった。」

室内の高級感と全くそぐわなかった。

「柱田さんからマンション買ってもらったって、本当?−−−凄えじゃん。」

白のホットパンツから、すらっと伸びた脚に、茂木が触れようとした瞬間、姫容李は音もなく立ち上がった。

瞬間、茂木は口笛を吹いた。

「南極より冷てえなあ」

そのままピタピタと、素足でバルコニーへ向かう。

キャミソールの上から、カーデを一枚羽織っている。

更紗の髪に隠れて、表情は見えない。

「何か、柱田さん今日大変な事になったらしいね−−−」

持っていた細いカクテルグラスの中に注がれた、青色の液体。

透かして、眼下の光が玉の様に歪んで、ボケる。

「哀れだよなあ−−−お前に一心で、入真地を轢き殺し、全財産で、お前にマンション買い、挙句の果てに−−−」

持っていたグラスを一気に飲み干す。

姫容李はそのまま窓から映る夜景を見ている。

明滅する、タワーのランプ。巨大なブリッジのライト。

「まあ、そんな事はどうでもいいのか−−−お前にとっては、柱田さんもいなくなれば、脅かす奴もいないもんな」

「いや−−−それはどうだろう」

姫容李は下を見たまま口を開いた。

「まだ何かあんの?」

気づくと、姫容李のすぐ後ろに立っていた。

当然の権利であるかのごとく、片腕を背中に回した。

笑みを浮かべて、軽く手を払い除けた。

「あんたのことだって、別にまだ許した訳じゃないから−−−」

「うわ、もうめっちゃ冷てえわ−−−あん時以来だわ、本当に」

「一生懸命作った彼女、自分のお父さんに取られたら、どんな気持ちか想像したことある?」

姫容李はニコニコしている。

笑顔の奥の眼光に、引き釣りこまれた。


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