ice cream_14
14
狭い室内を埋め尽くす、たくさんの植物。
真紅の薔薇−−−ベールを纏った、赤すぎる薔薇。
外はざあざあ降り。
花なんて、初めて買いに来た。
スポーツ刈りで、サイドが飛び出た髪型。
昨日ポテトチップスをこぼして汚れたジーンズ。
そんな中学生の自分にも、花屋のおばさんは優しかった。
包み込むような笑顔で、薔薇を包んでくれた。
渡された瞬間、外の灰色と真紅のコントラストで、目眩がした。
仄かにローズの甘い香りがした。
いつものあの人の髪の香り。
これを渡したら、どんなに喜んでくれるだろう。
つまりながらも、一生懸命に聞き出して、あの人の好みを聞いたんだ。
今日これから、あの人の家に行って、この花を渡すんだ−−−
外へ出る。降りしきる雨。
連絡入れよう。
画面を開く。
あれ、どうしてないんだろう−−−さっきまであったのに。
履歴からも入ってみる。
どれくらい経ったろう。
そういう事か。
いつの間にか、花束は無惨にも路面に落ちていた。
ばらばらになった、薔薇の花びら−−−
薄いベールは、それでも、水滴を弾き返していた。
しばらく動けなかった。
通行人が咳払いして通り過ぎる。
降りしきる雨。
「ねえ、あのさ」
うしろからハスキーな声が聞こえて、びくっとした。
振り返ると、姫容李がソファーの背もたれに肘をついて、こちらを眺めていた。
「もう、何なんだよお前よ−−−いきなり話しかけんじゃねんよ。さっきまでそっけなかったくせしてよ」
「いや、めっちゃ浸ってたから−−−」
今、自分はここまで上り詰めた。そして、眼の前に姫容李もいる−−−
「−−−アイスクリームが食べたい」
見ると、目がなくなるくらいまでに微笑んでいた。
「買ってくりゃいいじゃん−−−オートロック面倒じゃなければ」
何を言い出したのか、わからなかった。
失笑すると、姫容李は再び窓際から夜景を眺め始めた。
「あの娘さ−−−まだ生きてないよね?」
視線は外に合わせたままだった。
ガラスに反射した姫容李の笑みが見える。
「生きてる訳ねえじゃん」茂木は不機嫌を顔に表した。
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