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「私、ここで死んだんだ−−−」

入真知は、特に感情を込めることなく、凛とした声が、轟音の高架下に響く。

「フロントガラスに頭ぶつけたことあります?」

緑がかった信号が明滅する。

「めっちゃ痛いんよ−−−衝撃で耳も聞こえなくなるし。」

レーザービームが行き交う。

「柱田さんも、本気で突っ込んでくるからさ−−−バスと軽じゃ敵わないよね、流石に。」

夜勤のサラリーマンが、リュックを背負って、自分らの横を通過した。

銀縁の眼鏡から、冷ややかな視線を投げかけている。

「信じてたのに−−−姫容李とグルになりやがって」

向かいのなか卯の看板の電気がついたり消えたりしている。

「それもこれも、お前が受け止めなかったからだぞ−−−」

言った側から顔が笑っている。

「−−−なんてね。原因私なんだけどさ−−−」

入真知と姫容李の間に、何か大きなものがありそうだった。
でも、それが何なのかはわからない。

「たまに人のせいにしてみたくなる−−−重すぎて」

向かいに、カップルが見えた。
50代くらいの、かなり身なりのしっかりした男性と、露出の高い若い女性が、交差点の前で立ち止まった。

「はあ〜、死んでから、初めて言えた、こんな事−−−仮野といると、なんか楽」

死んでるくせに背伸びをして、入真地は、駅前の繁華街に目を向けた。

「仮野は本当に好きでこの仕事してるの?」

返答に窮する質問を投げかけてくる癖がある。

「生きてたら、私、やりたいことたくさんあったんだ−−−」

真緑のサラ金の看板が、ライトに浮かび上がっている。

「お酒出すところでも、働いてみたかったし−−−格好いい男と湾岸ドライブもしてみたかったし−−−建物にも興味あったし−−−」

そうだ−−−俺にも願望はあった−−−

相手のカミングアウトで、普段は目をそむけていた願望が、仮野の頭をよぎった。

口を開きかけたところで、被せるように言われた。

「綺麗さっぱり辞めて、新しい道を踏み出したかったんだよね−−−」

流れゆくランプをひたすら眺めている。

「ま、仮野に擦り付けてみても、結局原因は私なんだけどね−−−」

気づくと、入真知は仮野の方を向いて、微笑を浮かべていた。

「人の大切なモノ奪ってまで、自分の思い叶えるとか、した事ないだろ?」


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