ice cream_19

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扉の向こうに何か良からぬものがいる気がした。

仮野は、玄関の前でしばらく気配を消していた。

入真知は一体どこに行ったのだろう。

今朝まで威勢よく居座っていたくせに。

頼めば、扉の向こうに誰がいるか、見てこれるのに―――

「あの―――すいません、居ますか?」

聞いたことのある声だったが、かなり久しぶりに聞いた声だった。

誰の声か識別するまでに時間がかかった。

「助けて下さい――開けて下さい」

向こう側からドアを叩き始めた。

間違いなかった―――あの時、一緒にプロジェクトを組んで働いていたあの子だ。

でも、何故今更なんだろう―――もう10年も経過している。

覗き穴から確認することにした。

目を近づけた瞬間、手前の台所の、洗い物かごから、鍋が転げ落ちて、けたたましい音を立てた。

昨日入真知の希望で、鍋料理をしたときに使ったばかりだった。

「―――ないで!―――ないで!」

後ろから入真知の声が聞こえた。

今まで、ここに居たのか?

でもじゃあ、なんで急に見えなくなったんだ?

昨日あれだけハッキリ見えたのに―――
「助けて!―――殺される!」

外の女性の金切声が、激しくなった。

そういえば、テーブルの上の指輪―――自分がつけたらどうなるんだろうか?

とっさに思いついた。奇抜な形の金属は、仮野の細い指に巻き付くように嵌められた。

瞬間、心臓がバクっとなって、軽い目眩がした。

落ち着くと、眼の前に入真知が立っていた。

でも、今は、夕闇に消え入りそうな位薄い。

怪我でもしたのだろうか―――真っ白な顔の半分が、焼けただれて、しんどそうな表情を浮かべていた。

「姫容李にやられた―――想念が強すぎて、もう止められなかった―――あいつ生霊になってる。」

少し前から、ノックが止んでいることに気づいた。

「―――助けて下さい」

声は、部屋の内側からした。

自分の適当さを思い出して、呪った。

鍵を駆け忘れていた。


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