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ゆっくり振り返ると、そこには姫容李は居なかった。

髪型も、服装も、あの頃のままだった。

「殺されるところでした―――変えていただいて有難う御座います。」

相手は土足のまま、部屋に上がっていた。

顔面が蒼白で、丸い目をこちらにロックしている。

「やっぱり思ったとおりでした―――友達の男友達、全員失踪してました。」

眼の前の相手は、一方的に事象だけを伝えてきた。

「あの時付き合ってた私の相手も、行方不明に―――」

やはり、あのメールは本人からではなかったと、今更ながら思った。

「私、こんなことは絶対におかしいと思うんです―――何で勝手にやっかんで、他人が殺されなきゃいけないんですか?」

目を見開いたまま、滔々と彼女は唇を動かし続ける。

「いくら、自分に相手ができなからって―――人のものを奪って、詰めるなんて」

無表情の目尻に、涙が一筋流れた。

「仮野さんも長いこと苦しんできたんですよね―――頑張ってお客さんをつける度に、影で攻撃されてきたんですよね?」

詰め寄る姿に鬼気迫るものがあった。昔のIT女子の余裕は、どこにもない。

「でも、もう大丈夫ですよ―――私、すべてを告発してきます。ちょっとまってて下さい」

振り返って、玄関の方に向かいかけたところで、ピタと足取りが止んだ。

仮野は見た。そして、視線が釘付けになった。

落ち着いた色のセーターに、赤黒い液体が、いびつな形に広がっていた。

首の根っこあたりに、刃物の取っ手が立っていた。

入真知は悲鳴を上げた。

床に叩きつけられる生々しい音がして、彼女は絶命した。

「早く逃げて!」

入真知が金切り声を上げた。

金縛りに会ったかのように、仮野は動けなかった。

いままで、彼女の背中で見えなかった玄関が見えた。

姫容李が立っていた。


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