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「どうしたの?−−−今日調子いいねえ。」

柱田さんのハスキーボイスが、閑散とした空間に響き渡った。

切れ長の目からだろうか−−−快活さがあっても、嬉しいのかどうか、その表情までは読み取れない。

いつも施術後も、うぅすらと笑みを浮かべることはあるが、基本的には読み取りづらい。

何を考えているかわからない−−−とまでは行かないが、どことなく影の様なものがある人だ。

「いやあ、俺もさ−−−運転手辞めて、本当によかったと思ってさ。」

なにかといえば、この話が出た。

「一日16時間だよ−−−信じられる?ゴルフの練習できると思って就いたのにさ−−−」

グレーのスラックスに、白のポロシャツ。襟足の長くなった髪。

「巷じゃ、大勢乗せて事故に会っちゃった話とか聞くからねえ−−−どんな気持ちなんだろうね」

しわがれて、日焼けした指が、先程からピクピクと動いている。

「俺さ−−−たまに怖くなるんだよね。毎日運転してるとさ−−−バスって、モーター音がでかいでしょ?」

数年ぶりにゴルフシューズを履いたという−−−そのかかと部分が、長期間バンの荷台で、日光にさらされて、ベナベナに剥がれていた。

「知らないうちに人殺してるんじゃないか−−−ってね。もちろん接触したら、凄い音するんだろうけどさ」

目は、前方のティグラウンドをまっすぐと向いている。
靴のベナベナが後からついてくる。

「恨み買ったら、どんなだろうなあ−−−って、想像して、夜も眠れなくなるんだよねえ」

バブル期に財をなしたのだろうが、今はろくに仕事もしていないのだろう。
時間があるとそんな事を考えてしまうんだろうか?

向かいのコースと、背の高い木々で別れている。
その木々の間から、男女入り乱れた、数人のグループが見て取れる。

チェックのシャツとパンツに身を包み、お互いにプレイを褒めあっている。

財を成した人たちだ−−−単純に仮野はそう感じた。

サラリーマンの世界が、どんなものであるか、仮野は曲がりなりにも知っているつもりだ。

今とは、180度違う、あの淀んだ世界を。

あの日から仮野の人生は一変してしまった。


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