ice cream_16
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サーバールームだった。
暗がりに見数のオレンジと緑のランプが点滅している。
冷却しているのだろう。
首筋がヒヤッとした。
姫容李さんは、一体ここで何をしているんだろう。
「さっきの番号の機械、早く探せ。」
存外すぐに見つかった。
簡易型のラックに、ブレードが所狭しと並んでいる。
PCを接続する。
「あった。これだ!」
入真知は画面にあったテキストファイルを指さした。
何が記録されているのか、皆目検討がつかない。
「一番上のアイコン開け」
見覚えのあるXの文字があった。
前の会社で、連絡手段でよく使用していた。
「私じゃないなら−−−いつかやられるから」
さっき脳裏に浮かんだのは、明らかに姫容李さんの声だった。
どういう意味なんだろう?
単純な好意とは、明らかに違うんだろう。
「違うに決まってんだろ−−−キモ。死ね。童貞。」
画面を見ながら入真知が言った。
でも、さっきからもっともらしく隣にいるが、こいつこそ、どこまで信用できる存在かわからない。
そもそもさっきの脳裏の声だって、入真知が作った模造記憶の可能性も出てくる。
「いいっすよ−−−別に信じたくなきゃ」
入真知は代わりにマウスを取った。
器用にファイルをドラッグしていく。
「私はユズの仇がとれれば、それでいいんで」
外で学生の騒ぎ声がした。
「仮野に偉そうにしてるけど、私にだって原因がないわけじゃないから−−−」
こないだの交差点のときもそうだったが、ちょいちょいぶっこんでくる、この曰くは一体何なのだろう。
コールが鳴り止まない。酔った勢いで告白でもしてるんだろうか?
デジタルの時計が21:00を回った。あと30分くらいしたら、姫容李さんが戻ってくるだろう。
しばらく、入真知の指の動きを眺めていたが、ふと、壁面のコルクボードに目が行った。
L版くらいの古ぼけた写真がコルクに止められていた。
左半分が日焼けしていた。
視認してすぐに、違和感に気づいた。
上半身裸体で、二人並んで、ベッドの背もたれによっかかっている。
右側の女−−−髪色が姫容李さんに似ているが、明らかに老けすぎている。
でも、なんとなく面影があった。
隣の男は中学生くらいだろうか。
どういうわけか、普段見慣れた顔だったが、脳内で照合させるまでに時間がかかった。
「仮野のお父さんてさ−−−」
入真知も正面の写真を見ていた。
「浮気したことある?」
脈絡のない質問に、戸惑った。何でこんな質問をしてくるのだろう。
思い出す限りでは、そういったタイプの人間とは真逆だと思う。
あまりにも華がなさすぎて、どうやって母親と結婚にこぎつけたのかも、聞いたことすらない。
「あ−−−姫容李さん帰ってきた。」
心臓が一瞬乱打した。
慌てて、窓から商店街の方を覗いた。
先程の飲み屋の前で、学生が騒いでいるだけだった。
「うっそ〜。早くしろ。」
生前、どれだけ人をからかうのが好きだったのだろう。
これでは、茂木も手を焼いたろうと思いをめぐらした。
でも、なんとなく、そんな入真知の仕草が微笑ましいとも感じていた。
「−−−さっきからデート気分でいるだろ?」
入真知から言われた瞬間、眼前の写真の意味が繋がって、仮野は動けなくなった。
「1mmたりとも思うな−−−うざい。キモい。死ね。」
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