ice cream_22

22

オレンジと藍のグラデーションをバックに、お寺の鐘はくっきりとしたシルエットを浮かび上がらせていた。

手に持っていたアイスも、たまたま、柑橘とブルーベリーのミックスだった。

食べるには、あまりにも、季節も時間もめちゃくちゃだった。

でも、寒さ等、もう感じない。

血みどろの足を、屋上のフェンスの上からブランブランさせていた。

5階と言っても、結構な高さがある。俯瞰するにはちょうどいい。

寄り集まって住む、人々のエネルギー。

みんな、楽しそうだな。

どうして、私だけは、こんなに許されないんだろう―――

只、一緒にアイスが食べたかっただけなのに―――

世の中には、どうして、それができる人とできない人がいるんだろう―――

すべてをかけて、みんなを私のものにしたのに―――

それなのに、どうしてこんな簡単なことができないんだろう―――

丁度目線の先に、向かいの建物のベランダが見えた。

たくましそうな父親が、疲れた感じで手すりにもたれかかっている。

その隣で、狭いスペースを器用に三輪車で走り回る小さな女の子が見えた。

父親は、下で買ってきたアイスを小さい子に渡した。

子供は笑顔で食べ始めた。

私も、あそこまでは幸せだったんだ―――あそこまでは。

姫容李のアイスを握る手に力が入って震えた。

せっかく買ったアイスが、いびつな形に変形して、鳩の糞で汚れたコンクリにボトッとこぼれ落ちた。

私が、仲良くなった入真知を家に呼ばなければ―――

胸元から、ぐちゃぐちゃになった写真を取り出した。

2013年の5月の日付。もう、その日付のオレンジも日焼けして、くっきりとはわからない。

自分の父親である柱田と、その隣に、仲良く肩を寄せる、制服を着た、入真知の姿があった。

間にアイスをもって、ピースをしている。

しばらく、そのまま写真をみつめていたが、子供の鳴き声で、我に返った。

向かいの子が、アイスを落としたらしい。

父親がなだめているのが見えた。

大丈夫―――そう、大丈夫。

仮野君なら、きっと私とアイスを食べてくれる―――

さっき、そこで永遠を誓ったはずだから―――

永遠が崩れてしまうのは、もうあれきりにしてほしい―――

そのために、確実な方法が一つある―――それは

朧げな写真を、ぴっと投げた。

紙が色々な方向へ弧を描きながら、夕暮れを落ちていった。

姫容李はその華奢な身体で、フェンスの向こう側にたった。

むき出しのコンクリが余計に素足にガサついた。

改めて眺めていると、本当に人々の営みは美しくて、宝石箱のようだった。

仮野君―――信じていいんだよね?

夕暮れの冷気のなか、姫容李はゆっくりと階下へ身を投げた。


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