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始業時間・終業時間後等の時間、看護師は協会の指揮命令下に置かれていたとして、未払割増賃金等支払請求が一部認められた例(令和2年5月29日大阪地裁)

概要

看護師が、協会に対し、
〔1〕雇用契約に基づき、未払時間外割増賃金等及び遅延損害金の支払
〔2〕労働基準法114条所定の付加金及び遅延損害金の支払
〔3〕被告が原告申請に係る年次有給休暇及び生理休暇の取得妨害等をしており、これが不法行為を構成する
などと主張して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)及び遅延損害金の支払をそれぞれ求めた。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

平成28年1月以前の「日勤」時には、一定数の看護師が所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等の業務に従事していたものと認定でき、ひいては、協会において、このような一定数の看護師がしていた行動について、担当業務の遂行方法の一つとしてこれを容認していたとみられ、この点に協会による黙示の業務命令があったと認 定でき、また、平成28年1月以前の「準夜勤」「深夜勤」時についても、黙示の業務命令に基づき、所定始業時刻前である本件病院建物への到着後間もなく、労務提供を開始していたものと認定でき、さらに、平成28年2月以降についても、協会による黙示の業務命令が継続しており、看護師はそれに基づいて従前と同様の所定始業時刻前の労務提供をしていたものと認定でき、そして、本件病院での看護師の制服への着替えは、その業務に不可欠な準備行為として、協会から黙示的に義務付けられていると評価すべきであり、このような本件における具体的事情に照らせば、この着替え等に要する時間についても、協会の指揮命令下に置かれていたものとして、これを労働時間の一部と捉えることが相当である。

看護師は、協会において付加金の支払をすべきものと主張するが、協会が時間外勤務等に対する一定の割増賃金を支払っていること、看護師において自ら時間外勤務申請をしていないとみられること等から、協会に対して付加金支払を命ずることまでは要しない。

協会による休暇取得妨害の存否及びその違法性等に関して、この点に関する看護師の主張は、指定休日を与えなかったという事実の存在自体が認められず、前提を欠くものとして採用できず、また、年次有給休暇取得申請に対して他の種別の休暇として処理したとする点及び申請していない年次有給休暇取得を強要したとする点について、これらの点に関する協会がした処理は、看護師による年次有給休暇に係る権利を侵害した違法性を有し得るものといえるが、これ らの点に関する協会がした処理につき、賠償責任を伴うような違法があったと断ずるには疑義があり、少なくとも協会に慰謝料の支払を命ずるまでの精神的苦痛が看護師に生じたとは認めるに足りないというべきであり、そして、生理休暇取得申請に対して法定休日として処理したとする点についても、協会においてさほどの期間を置かず、看護師の申請どおり、生理休暇にその休暇の種別を改めていることからして、少なくとも協会に慰謝料の支払を命ずるまでの精神的苦痛が看護師に生じたとは認めるに足りないというべきであるから、本訴請求のうち不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求に係る部分は理由がない。

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