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ポエム帳

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酔っぱらったときに書きます。
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2018年5月の記事一覧

10号線のライムライト

午前二時、彼は今夜もあのバーから出てきた。薄手のコートを月風にはためかせて、細く長い影を伸ばす。私は彼のあとをこっそりと追いながら、ひたすら国道の乾いた風を浴びた。ときどきトラックが過ぎるたび、少し煙たい。
彼の名前はわかっている。住所も、職業も、生い立ちも、とうに調査済みである。それから、今夜飲んだカクテルの名前さえ。
彼の家は坂道の途中にある。そばに小さな神社がある。耳の遠い老婆の営むクリーニ

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まぶしい夏

朝の快速電車はゆっくりと時が流れる。夜の名残りは陽射しの中に溶けてしまい、私は窓の外を見る。誰もが幸せそうな五月の街は白い息を吐きながら、盗まれた絵画のように過ぎ去ってゆく。
空は青くて、風はとまっていた。追いかけてくる太陽は探偵のようなまなざしで、レンガ通りに28℃のニスを引く。八百屋のプールに真っ赤なトマトが浮かんでは沈む。私は嬉しくなって走り出す。ティファニーの鞄が路地を切り裂き、その隙間か

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