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ポエム帳

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酔っぱらったときに書きます。
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2016年3月の記事一覧

私は春を抱きしめていたい

 線路沿いをひとり歩く帰り道。左手のフェンス越しに電車が私とすれ違ったり追い越したりする。右手では鈍い灯りの古書店の、店先のワゴンの雑誌がめくれる。生ぬるい風だ。やっと、春がきた。
 ホームには若い女性。疲れた顔をしている。ちらりと目があったがロマンスのかけらもない。鞄を抱きかかえるようにしてホームの先に立ち、電車のくるのを待ち侘びる彼女の後ろで、私は誰も腰掛けようとしないつめたいベンチに腰掛ける

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Youth 18 ticket

 青色の絵の具を水に落として、薄く広がってゆく水色を眺めながら、私はふと涙してしまった。あまりにまぶしい季節の中で、目も開けられずに顔を背けたその先に広がっていた海。線路際に立って、誰もが旅立ちを見送るその駅で、私と、あなたと、そのほかのすべての人達とが、笑顔でハンカチーフを振って、私だけが睫毛を濡らして、いいえ決してかなしい訳ではないんです、あなたの大人になるのさえ、きっと春から夏に変わるような

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