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背中【緑陰】


560文字


古木によりそう陰が
光の姿を映していた
輝きに気がつくためには陰が必要だという


光の失われた世界など
ロールプレイングのゲームのようでも
光と影は対立するのか
同じものなのか


いつまでも解けない問いかけ


じつに目の前には対立などない
光のもとにできる木陰


欺かれたファンタジーを君も私も生きているのかもしれない


古木が語る光には陰が現れる


古木の影の複雑なシルエットには
対立などない調和の響きがある

和音の

ゆるぎない光と
よりそう影と
その調和が必ずある



陰だけをふきとるように夏が
あの風をつれてきたけれども
光と陰を同時に消すことはできない


夕日に赤い帆のように
背を向けたころだ



私は私の影ばかりを見ていた
そのとき背中を吹きぬけたあの
北風の冷たい色をおぼえているか



いや、
もう忘れた



顔をあげて今
朝の光にむかって青い手をひろげたらそのとき


そのときに


光にむかうそのときに
自分の背中の陰は見ることができないと気づいた


調和して光のなかにたたずむ
私は古木のようになりたい
いつか


たった一本の木になりたいとさえ思った


光と影と調和した緑陰
生きる光陰は夏を足早に過ぐ


木陰をつくることが
私の生きている理由だ

木陰に憩うことも
私の生きている理由だ


誰かの影は憩いの陰


やさしい背中には
理由などかいてはいない
語る必要もないのだと思う

やさしくするのに
理由などない
やさしくされるのにも
理由などない

木陰のように

光と影の調和は美しい




~背中シリーズ~

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