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爆走!韓国旅行 その3

 ビジネスクラス、広い!床がふかふか!これが私の感想でした。ええー同じ飛行機とは思えない…エコノミーの貨物感ったらないな…。1泊2日、現地滞在おそらく24時間もない旅、飛行時間わずか2時間半。そのために何十万か払ったよね…それがこのスペース…。
 空間はお金で買えるんだな、ということを実感しながら案内された席に座りました。当然のようにママとHちゃんは隣同士です。飛行機では喧嘩はしないんだろう…私が座ったのは通路側で、窓側にはすでにスーツをびしっと着たビジネスマンが着席されていました。

 外国人だ…、私が座るよきタイミングでハローと挨拶してくれましたので、私もお返事しました。若干面倒くさい予感がしましたが、しかめっつらしたでっかいおっさんよりは、シュッとした中年紳士のほうがまだましであろうと思いなおしました。椅子は広いし、足はのばせるし、バッグ置くところも広いし…とにかく広い!飛行機とは思えないなあと感激していると、ドリンクサービスがやってきました。

 ガラガラワゴンでくるのではなく、なにかが注がれたグラスをトレイにのせ、優雅にアテンダントさんが歩いてきます。えっ、離陸前にドリンクあるの?という小市民の驚き。
 隣の二人は迷うことなくシャンパンを選んでいました。スパークリングではなかったです。はっきりシャンパンと言っていました。私は下戸なのでJAL様オリジナルのキウイジュースをいただきました。隣の紳士はシャンパンです。乾杯されたらどうしようと思いましたが、軽くグラスをあげてにっこりされただけでした。隣同士になったからと交流をはかりたい気持ちはあまりないのですが、日本を出発する人にあまり悪い印象を与えてもいけないなと勝手に思っていました。

 今思えばこのドリンクタイム中に、後方のエコノミーでは荷物をぎゅうぎゅうに棚に詰める人、そのために通路が通れなくて停滞する人、通路を間違える人などのエコノミー世界があったということなんですね。そういうお時間もビジネスではただお待たせするのではなく、おもてなししてくれるということなのですね。こんなんじゃファーストクラスはどうなってしまうのだろうか。それよりこの外国人紳士に話しかけられたらメンドクサイな…、それしか頭にありませんでした。

 皆様がドリンクを楽しんだあたりで優雅にグラスが回収されます。プラスチックじゃないグラスに驚いた記憶があります。そしてテーブルを戻すよう促され…というか私の場合はぼけっとしていたら、優雅に戻してくれました。エコノミーみたいに戻して下さいって指令を受けるんじゃないんですね…。

 無事離陸。隣の二人はすぐに爆睡。なんか、すごい。よく分からないけどすごいっていう表現しかない…、と思っていたら隣の紳士が、あちらの通路の方と一緒ですか、寝ちゃいましたね、と話しかけて来ました。うえーメンドクサイよー。
 そうなんです、友人親子と一緒に旅行ですというと、そういう組み合わせにあまり疑問を感じないのか、ソウルは初めてですか?とかなんとか会話をする気満々な気配がします。ここで断るのってどのよーにしたら…と考えるのも面倒になって、初めてです、ロッテワールド楽しみですなどと思ってもいないことを英語で会話します。紳士は釣り道具のセールスマンだそうです。福岡、大阪、東京と回って最後にソウルでお仕事してアメリカに帰るのだそうです。
 ルアーと聞いて魚釣りの?とジェスチャーをすると嬉しそうに脇においたアタッシュケースを取り出しました。

 事件だ。

 ちょっと待ってほしいです。えっといつも持ち歩いてるポケット和英辞典…反対側からめくると英和辞典…のアレ、姉のおさがりの便利なアレをだすからちょっと…とバッグに手を伸ばそうとして思い出しました。

 韓国は英語通じないよ。むしろ日本語のほうが通じる。年齢高い人なんかほとんど日本語。とHちゃんから聞いてアレ持ってこなかった…持ってくればよかった…。やっぱり国際線乗る時はあのお守がいるんだ…、もはやこの脳みそにあるだけの英語力でなんとか乗り切るしかないのです。なんという過酷なビジネスクラスでしょう。

 アタッシュケースには美術品のような作り物の魚がずらりと並んでいました。釣りはまったく分からないのですが、本当にきれいだったので、おおー初めて見ましたー、ウツクシイデスネーと言うと大変自慢げに紳士は微笑みました。そしてこれは川で使う、これは海で使う、など解説が始まりました。1個いくら?と聞いても買うわけではないので値段は聞きませんでしたが、これを見本にしてオーダーメイドで作って売るということだったのでいわゆる富裕層相手のお仕事だったんだろうなと思います。そりゃビジネス乗りますよね。

 さらに紳士はなにやらカタログを取り出しました。巨大な魚を手にした人の写真が載っています。この魚なんでしょう?と聞かれ、メンドクサイメーターが振り切れそうになります。うーん…でかいしな、マグロだろう。ツナ?というとオーイエース!と喜んでくださいます。なんなんだこれ。隣は爆睡だし。日本だとマグロ漁船は遠くまで行ってなかなか帰ってこないので、脅迫するときにマグロ漁船に乗せるぞっていう言葉を使います、などと適当なことを言うといたく感心した様子。そしてあなたの英語はお上手です、誰に習ったのですか?と聞かれました。
 TOEICでどーやっても700点に達しない私をばかにしてんのか!と言いたくなりますが、そんなことは紳士は知らないのです。父に習いましたとこれまた大嘘をぺろっと言いましたら、お父さんはさぞご自慢でしょうねえ、などと言ってくださいます。まあ、学費を出してくれたのは父ですのでまったくの嘘ではナイデス。

 そろそろ疲れ…、と思った頃お食事の準備が始まりました。なんと!そうだちょうどお昼にかかるから機内食が出ると聞いていたのを思い出しました!朗報!お食事はトレイにセットされていましたが内容がとても豪華でした。基本、和食なのでしょう。蕎麦が見えました。紳士はお箸を持ちパタパタ動かしてお箸を使えるアピールをするので、うっすら微笑んでそれをお返事としました。ああメンドクサイ。

 日本で三都市回ったなら和食も大丈夫なんだろうと早速食べていると、紳士がお蕎麦の入ったカップをもって首を傾げ、私の方を見ました。あ、つゆがこれで、これに入れて食べますね、ワサビはからいですね、などと身振り手振りで説明しているところへ、様子を見に来たアテンダントが、私と紳士が楽しく食事をしているように見えたのか頷いて去って行きました。去らないで…この人に食べ方を教えてあげて…!
 紳士、おおこれは蕎麦ですか!そう!蕎麦です!!それなら食べたことがありますが、カップに入っていなかったと言います。ザルはちょっと機内では…。こういうタイプもあります、便利で持ち運べますとこれまた適当なことを言います。その当時コンビニでそろそろ調理された麺が売り出され、のびたゴムのような冷やし中華なんかを見かけるようになっていました。今はとてもおいしくなっていますが。

 紳士、それなりにすすっておられました。ゆったりとした、機内食とは思えない食事時間を終え隣を見るとまた爆睡。そういえば食事の時もなんかワインとかもらってたな、あの二人…。
 最後にあたたかい緑茶などをもらって一息ついたあたりでもう耐えられず眠くなり、紳士に断りもなく眠りに落ちました。朝から事件続きでソウルでの平和を祈るしかできません。

 当時、紳士にあまり親切にしようと思わなかったのは紳士の左薬指に結婚指輪があったからです。私は独身でしたので、おっさん奥さんいるなら飛行機で隣になった女性に話しかけないでよという気分でもありました。まあ話すと面白いことはあるのですが、今になって思えばあのルアーいくらですかって聞いておいたら、ちょっと勉強になった気はします。

 無事着陸、こちらはママのお手伝いをせねばならないので、それでは、と挨拶して席を立つと握手を求められたのでなんなのこれ、と思いながらシェイクハンドで国際交流。紳士はアテンダントにもお礼を言って、去って行きました。やれやれ。

 「なんか話してたねー」とにやにやのHちゃん。そして「飲んじゃった」と空の小瓶を見せるママ。ええーなんかいろいろ食事の時飲んでましたけどいつの間にその焼酎を開けたのでしょうか。全然ビジネスクラスっぽいことを享受できぬまま、私はソウルに初めて降りました。

つづく

ちょっとは役にたったかも、と思われましたら少し置いていっていただけるとありがたいです。