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女性の活躍推進:「えるぼし」の罠から「クオータ制」の導入へ

 先日、うちの会社で労働組合をやっている入社同期の女の子に声かけられた。特別休暇の取得経験者にインタビューを行い、その記事を労組誌に掲載するのが趣旨だったけど、その中、どうしても「生理休暇」だけ、取得した人が見つからず、私に声がかかったそう。

1.生理休暇を取ったことがあるのは私だけ?

 その同期が人事課に所属しているので、そこそこ全社員の休暇取得状況を把握しているはずだが、私以外生理休暇を取得したことがある人が知らないとは、さすがにびっくりした。
 彼女がこのテーマを取り扱いたいと、組合の中執(中央執行委員)に上げたところ、「センシティブな内容だからやめたほうが良いのでは」「有給休暇が少なくなればこの休暇を取得して良いと思う人が出てくるのでは」といった、必ずしも前向きではない声も聞こえたとのこと。
 それを聞いて、がっかりというか、少し絶句した。
 生理は本来であれば、女性にとって極めて自然な生理現象なのに、どうして男性の目に「センシティブなもの」として映ってしまうのだろうと。
 この生理をタブー視する風潮が一番改革すべきところだと思った。
 インドやネパールで生理中の女性を小屋に隔離するなどのニュースはしばしば目にするけど、日本でも、このようにタブー視すること自体がその差別の延長線上にあるのではないか、本質的に違いがないじゃないかと思った。 
 「有給休暇が少なくなればこの休暇を取得して良いと思う人が出てくる」心配はさらにナンセンス。生理休暇の取得が女性にとってどれだけハードルが高いことが分かっていない。今回もインタビュー対象が全然見つからなかったのに、全社的に見て取得したことがあるのは私ぐらいなのに、よくこんなことを言えるんだなと思った。
 だったら私が顔出し名前付きでこの認識を正してやる!と思って、右手にナプキン、左手に鎮痛剤を持った写真を社内誌の一面に載せた(笑)

2.女性所長はなんとわずか5%未満

 この件で気づいたのは、生理のタブー視風潮と、女性管理職の少なさだった。
 東京本部だと、事前に体調不良とだけ伝えておけば、実際の申請はシステム上となり、上司へ直接「生理休暇をとります」と伝える必要がなかったが、海外事務所ではまだそのような勤怠管理システムが整っていなく、所長へ紙で直接申請しなければならず、さらに有休が残っている状態ではなおさら取得しづらいと感じている。
 生理休暇は特別休暇にあたるけど、少なくとも私が所属している海外事務所では、特別休暇の申請用紙の選択肢に生理休暇自体がそもそも含まれていなかった。そもそも含まれていなく、かつ所長が男性の場合、いくら私でも、申請用紙に新しく生理休暇を加え、自ら取得することを躊躇してしまっていた(笑)。これからやるけど。

 さて本題に戻る。
 東京本部にいると、女性管理職が前より確かに少し増えているかもしれないけど、地方と海外に出ると、まるで違うようだ。うちの会社は全都道府県に49、海外に76、計125事務所があるなか、現時点の数字だけど、女性の所長は国内4名、海外に2名の計6名、わずか全体の4.8%。

 これで政府からえるぼし認定(しかもプラチナ)もらってるから、もはやうちの問題ではなく、政府の基準の問題だと思った。 

3.なのに女性活躍推進企業認定「えるぼし」獲得

 認定基準をこちらに掲載する。
 女性活躍推進企業認定「えるぼし・プラチナえるぼし認定」認定基準
 採用されてから仕事をしていく上で、女性が能力を発揮しやすい職場環境であるかという観点から、以下5つの評価項目が定められていて、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表することが必要です。
①採用
②継続就業 
③労働時間等の働き方
④管理職比率
⑤多様なキャリアコース

 そのなか、一番肝心な④管理職比率の基準は、一見普通だけど、実質は現状からさほど変わらないからくりがあった:
直近の事業年度において、管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値以上であること(プラチナは1.5倍以上)

4.「えるぼし」は「みんなレベル低くてみんな一緒」という、いびつな均衡

 本来であればクオータ制(格差是正のために人種や性別、宗教などを基準にマイノリティに割り当てを行うポジティブ・アクションのこと)にしないと底上げがそもそもできないのに、「産業ごとの平均値」というもので誤魔化しているような気がしてならない。

 「産業ごとの平均値」。もしこの平均値が10%なら、15%にさえすれば、プラチナえるぼしを獲得できるわけだ。これだといつまで経っても「202030」が達成ができない。

5.女性管理職がなかなか増えない原因

 202030とは、政府が2003年に、202030(2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が、30%になる)を、はじめて数値目標として掲げた。当時の企業における女性管理職比率は8.9%(内閣府『男女共同参画白書』2003年版)。しかし、2023年時点の女性管理職比率は9.4%、20年が経ったにもかかわらず大して変わっていない。そのため、政府が改めて203030と掲げ、実現時期をさらに10年間伸ばしたが、それに見合った具体的な政策が出ているわけではない。

 なかなか達成されない原因には、法制度と社会構造の2つの問題が指摘されている。現行の女性活躍推進法は単なる努力目標で罰則がない。強制力がなく実効性のない法律なら、企業が目標を達成することも難しくなるのが当たり前だと思う。

 そして、女性管理職が増えないもう一つの原因は、そもそも少なすぎる採用、限定された職種、残業・休日出勤などの長時間労働が当たり前の働き方など、社会構造にある。「管理職に登用できる女性がいない」という意見も多く聞かれるが、長年キャリア育成の対象として見られず、経験や機会の付与が少なかったり、男性型リーダーシップスタイルが求められたり、良かれと思って女性に「慈悲的差別」をする上司の存在など、様々な阻害要因がある中で、現存の制度では女性だけを責めるのは無理があると思った。

6.一番の解決策は、クオータ制の導入

 来年度うちの会社が次期中期に入るけど、総務部に新しく「ダイバーシティ推進室」ができるみたい。先日別件で人事課長と面談する機会があって、期待されている仕事内容について聞いてみた。社内におけるダイバーシティの推進と、社外に対して、社内の取り組みをPRするとのことだった。
 「本部の管理職もそうですし、地方と海外事務所の女性所長はまだ全然少ないんですよね」と、やや批判的なコメントをした私に対して、「タイミングによって多かったり少なかったりするけど、それでも昔よりはだいぶ増えた。女性も女性側で色々難しいから、すぐ一気にやろうと思ってもできないから」と言われた。
 一見ものすごく正論。
 だけど、全社の人事を司る人事課長として、危機感の足りなさが露呈するあるまじき発言だと思った。
 クオータ制は、これまでずっと女性団体が提案してきたが、日本では政財界にいる人が、クオータ制は賛成できない。能力のない人をポジションにつけるという逆差別になるという。人口の男女比は半々だから、能力のある人の割合も同じはず。なので、クオータ制が一番正しいと思う。こうやって逆差別だと騒ぐ人は、男性はいかに高い下駄をはいているかという実態に気付いていない。
 裏返せば、これまで男だというだけで能力のない人たちをポジションにつけてきたということになる。

7.30%は最低限

 そもそもフランスや北欧では、最初の目標が40%(実際は既に40%達成済み、現在は半々を目指している)だったのに対して、なぜ日本はまず30%なのか。
 30%とは、ハーバート大学のロザベス・モス・カンター氏が提唱する「黄金の3割」理論に基づくと言われている。集団の中のマイノリティは、様々な阻害要因や少数派ゆえの課題により十分に力を発揮することができない状態にある。30%という数字は、「クリティカル・マス」と呼ばれる比率で、マイノリティがマイノリティでなくなる必要最低限の割合である。
 一つの集団がそれなりの秩序を保って続いているということは、免疫を持っているということ。だから異物は自動的に取り除かれてしまう。会社でも現在の体制に文句をつけそうな人は、閑職に追いやったりして出世させない。あるいはやめるように仕向ける。集団を維持するための免疫が働くから。
 異質な人が1人だけだと「うちの会社はダイバーシティに力を入れている」というポーズにとどまるが、たくさんいれば、組織の免疫力が効かなくなる。今既得権益を持っている人たちが、自己変革で変わることはほぼ期待できない。こうやって生え抜き組と新参者との間が部内でバトルが起き、お互いが必死になった結果、確実に社内が変わっていくんだと私は思う。

 この問題についてこの本をおすすめする。立命館アジア太平洋大学学長、ライフネット生命創業者の出口治明さんと、私が尊敬する、日本の女性学第一人者の上野千鶴子さんの共著となるが、ぜひご賞味ください。


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