【映画】由宇子の天秤


★★★★★

自分がメディア関係の仕事をしている分、かなり沁みる映画。序盤のゆうこが一ドキュメンタリー監督として被害者に寄り添う描写では、敏腕ディレクターで、ディレクターとしての優秀さをただただ感じさせられた。ただ、ゆうこは被害者に無理に理解しようとはしていないように見えた。一定の距離感をもってたんたんと向き合う。番組の作成を通して社会的にどんな訴えをしたいか、まっすぐ取材相手に伝える。記者の鑑だと思えた。

記者またはディレクターの仕事の真骨頂は寄り添うことではなく、伝えることにあると思う。裏を返せば伝えることしかできていない。ゆうこがそうだったように、相手の心に寄り添い、言葉をひきだすことはできても相手の心をすべて理解しようなんて、できない。当事者意識を持つと、自分を守ろうとする。ゆうこの父親もばれないように隠そうとする。そんなこと無理だしいつか絶対わかることでも。それがわかっていても守ろうとする。守って得することなんてないのに。人間ってどんだけ傲慢なんだろう。そんな父親に対して、事実との向き合い方を強く伝えることのできるゆうこは正義感に満ち溢れていた。ギラギラした目はプロの目だった。

物事を公平な視点で見ることは難しい。物事の捉え方は主体によって変わる。自分にとっての正しさ、相手にとっての正しさ、第三者にとっての正しさ。どの主体から見ることが正解なのか、考えさせられた。でも、どの主体をとっても誰かを傷つけてしまうことはある。その上で私が思うのは、正義とは第三者の視点を忘れず、それでもって相手の心に寄り添うことだと思う。これもまた私の考えで、正解なんてない。傲慢な選択をしようとする自分の中であらがっていたゆうこは美しかった。最後の最後でめいの父親に真実を打ち明けたとき胸が熱くなった。私もそう行動できる記者でありたいと強く思う。


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