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グロー・ヤング・ウィズ・ミー

内容紹介
『グロー・ヤング・ウィズ・ミー』【シナリオ形式】1/4

「若返りの遺伝子」を操作した!?
 若返り過ぎて前世にまで戻った!?

『カレとカノジョはワタシの事情』【ノベル形式】。その前はこんな話だった。

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○ ビデオカメラ・ファインダー
   女・佐藤吉美(三五)の顔。
男の声「佐藤吉美さん」
吉美「はい」
男の声「今からあなたの若返りの遺伝子を操
 作します」

○ タトゥー・スタジオ『彫りプロ』
   佐藤浩美(三五)の真剣な眼差し(吉
   美と瓜二つ)。女性客の腹部に、「ポ
   ケットと、そこから飛び出そうとする
   カンガルー」のタトゥーを彫っている。
   その場面を雑誌社が撮影している。
   壁中に貼られた、トリックアートの様
   で、ユニークなタトゥー作品の写真。
記者「うーん。トリックアート風か……タト
 ゥー界に新しいカリスマの誕生だ」
浩美「……」

○ 研究室
   吉美。ビデオカメラの前に座っている。
   周りを山本育夫(三九)ら、科学者達
   が囲んでいる。
山本「(時計を見て)いよいよだ……」
吉美「!?」
山本「?(吉美の異変に気づき)カ、カメラ
 カメラ!……さあ、若返れ……若返れ!」
   カメラマン、ファインダーを凝視する。
   吉美が若返り始める。
山本「よーし、来た!」
   吉美、一八歳位の姿に若返る。
   周りから歓声があがる。拍手喝采。
山本「……ノーベル賞貰い」
   吉美、鏡で自分の姿を見る。
吉美「!」
山本「社交ダンス習いに行かなきゃ」
   吉美が再び若返り始める。
吉美「えっ!?」
山本「!?」
   吉美、五歳位の姿に若返る。
吉美「いやぁーっ!!」
   周りがどよめく。
山本「……」
   吉美、赤ん坊にまで若返る。
   遂には服を残し、姿を消してしまう。

○ タイトル

○ タトゥー・スタジオ『彫りプロ』
   浩美の仕事、「作品」が完成する。
記者「おお……いい!」
浩美「……うん。まあ、いい感じ」
記者「いい!ファッション誌にも載せようか
 ?それとも、パリコレにでも出す?」
浩美「……タトゥーは現代の彫刻芸術よ。ロ
 ダンもミケランジェロも二一世紀に生まれ
 てたら、タトゥーを彫ってたわ」
記者「おっ!?それ、頂き!」
   電話が鳴る。浩美が取りに行く。
浩美「(出て)はい……オーナー?……でも、
 午後からはアート展が……分かりました」
   傍らにある雑誌。フリーライター・野
   口納の「大流行!タトゥーはプチ整形
   か?」という記事が載っている。
   その雑誌の野口(二八)の写真。

○ 出版社
   打合せをしていた野口のケータイの着
   信音が鳴る。
野口「(出て)はい、野口です……ええ、佐
 藤吉美は。でも実は先日……えぇっ!?」

○ 究極美術研究所・外観
   病院の様な建物。

○ 同・所長室
   加藤幸一(三五)、山本、野口が居る。
   浩美が入って来る。
野口「(浩美を見て)吉美!?」
浩美「オーナー」
加藤「浩美。待ってたよ」
野口「?」
加藤「まさか、君のお姉さんだったなんて」
浩美「双子なんです。一卵性の」
野口「……(二人の様子を見ている)」
加藤「私の居ない間に治験が行われてね」
山本「……」
野口「あの、一体、どういう事ですか?」
加藤「(山本に)ご説明して」
山本「先日……インターネットを通じて治験
 のボランティアを募集しましたところ……
 佐藤吉美さんから応募がありまして……」
野口「あの、一体、何の治験ですか?」
山本「遺伝子操作です」
野口「何だって!?」
浩美「遺伝子操作!?」
山本「ご存知の様に、遺伝子にはその人の特
 徴となる情報が書き込まれています」
野口「ああ……逆にその遺伝子を人為的に操
 作すれば、その人の特徴を変える事が出来
 るんですよね。それで病気を治したり」
山本「ええ。それで私が発見した……」
加藤「究極美術研究所が発見した」
山本「究極美術研究所が発見した若返りの遺
 伝子を操作したのです」
浩美「若返りの遺伝子!?」
山本「その遺伝子を操作すると、その人を若
 返らせる事が出来るんです」
野口「……」
浩美「それで、お姉ちゃんは、姉は若返りの
 遺伝子を操作して、若返ったんですか?」
山本「若返りました」
浩美「……」
山本「ただ……若返り過ぎて……」
浩美「?」
山本「赤ちゃんにまで若返って……最後は、
 姿を消してしまったんです」
浩美「!?」
山本「これがその時のビデオです。どうぞご
 覧下さい(ビデオを再生する)」
浩美「……!」

○ 暗い部屋
   中年の冴えない男が目を覚まし、ゆっ
   くりと身体を起こす。男は裸である。
男 「(裸である事に気づき)あーっ!?」
浩美の声「(悲鳴)!」

○ 究極美術研究所・所長室
浩美「……」
野口「何て事を……」
加藤「それで研究所としての対応を検討して
 おりまして……それまでは警察やマスコミ
 には伏せておいて頂きたいのです」
野口「何だと!?」
加藤「研究所としても誠意ある対応をお約束
 します。しかしこれは前例のない事で……
 今はどうしていいのか分からないのです」
野口「そんな問題か!?人が消えたんだぞ!」
浩美「やめて!」
   浩美と加藤、抱き合う。

○ 暗い部屋
   裸の冴えない男がオロオロとしている。
   その男に手術着が被せられる。
男 「うわーっ!」
   手術着を着た少女(一〇)が目に入る。
少女「それ、着なさい」
男 「?(手術着を身に纏う)」
   ここはどうやら病院の手術室らしい。
男 「ど、どういう事?」
少女「若返りの遺伝子よ」
男 「わ、若返りの遺伝子?」
少女「そうよ。あんた、佐藤吉美でしょ」
吉美「え?……ええ」
少女「若返りの遺伝子、操作したでしょ」
吉美「若返りの遺伝子?……はっ!」
少女「思い出した?それでどんどん若返って
 行ったでしょ。で、赤ちゃんにまで戻って」
吉美「……消えた」
少女「前世まで戻ったのよ」
吉美「何て!?」
少女「見てみなさいよ(と、鏡を指す)」
   吉美、恐る恐る鏡を覗き込む。
   男(四五)の姿になっている。
少女の声「見てごらん。ほらオッサンだよ」
吉美「(悲鳴)!」
少女「とんでもない事になっちゃったわよね。
 若返るどころか、老けちゃって。性別まで
 変って。よりによって……オッサン!」
吉美「前世?前世に戻ったって?……あ、あ
 なたは……?」
少女「やっぱり気づいてないんだ」
吉美「え?」
少女「お腹に居たの。あんたの子よ」
吉美「?(お腹をさすってみる)」
少女「あんたが女だった時。現世で」
吉美「う、嘘……嘘だーっ!!」

○ 道
   浩美と野口が歩いている。
   浩美は大きな紙袋を持っている。
野口「急に、一方的に別れようって言われて。
 何が何だか。そしたら、こんな事に……」
浩美「……」
野口「……あの、身内の方にだけは知らせて
 おいた方がいいんじゃないですか。吉美が、
 吉美さんが消えて……居なくなった事」
浩美「え?」
野口「あ……すみません。そうでしたね……
 お父さん、蒸発してらしたんですよね。ま
 だお二人が生まれる前に」
浩美「?……ええ」
野口「その頃、人間蒸発って多くて、社会問
 題になってたそうですね。映画にもなって」
浩美「……」
野口「それにお母さんまでも交通事故で……
 吉美さんにはお父さんの名前を付けられた
 んですってね。男でも女でも使える名前だ
 からって。双子なのに、長女だからって理
 由で。それが嫌だったって」
浩美「……あの、私、仕事があるので……」
野口「!?……でも、あの、お姉さんは……」
浩美「失礼します(と、去って行く)」
野口「……」

○ 病院・屋上・洗濯場
   少女が人目を忍んで、干されている服
   を適当に盗み、持ち帰る。

○ 同・病棟
   服を着替えた吉美と少女が歩いて来る。
   病棟・病室の設備が古めかしい。
   やっと見つけたテレビは白黒。
吉美「……テレビ、白黒?今、いつなの?」
   少女、看護婦(二四)の所へ行く。
少女「あの……妹が生まれたの。あの……今
 年、何年ですか?」
看護婦「(微笑んで)四二年よ」
少女「四二年?一九四二年?」
看護婦「(笑って)昭和四二年よ。そう。お
 姉ちゃんになったの。お嬢ちゃん名前は?」
少女「名前?……亜弥!松浦亜弥!」
看護婦「亜弥お姉ちゃんね。おめでとう」
   看護婦の名札……「佐藤直子」。
亜弥「(名札を見て)……ありがとう」
   亜弥、吉美の所へ戻って行く。
吉美「誰が松浦亜弥だって?」
亜弥「……昭和四二年よ……計算が合うわ」
吉美「しょ、昭和四二年だって!?」
   吉美、廊下を走り出す。

○ 東京究美会総合病院
   究極美術研究所と同じ建物だが新しい。
   吉美が外へ走り出して行く。

○ 『究極美・タトゥー・アート展』会場
   慌しく準備が進められている。
   浩美が駆け込んで来る。
浩美「さぁ、もう時間ないわよ!急いで!」
   ケータイの着信音が鳴る。
浩美「!?(紙袋を見て)お姉ちゃん?」
   浩美、紙袋の中、吉美の残した服のポ
   ケットからケータイを取り出す。
浩美「……(出て)はい……え?」

○ 東京究美会総合病院・ロビー
   吉美、リカちゃん人形を持って、亜弥
   の前に立っている。
吉美「都電がデレデレ走ってた」
亜弥「都電?」
吉美「高層ビルもない。パルコも109もな
 い。皆、髪、黒いし……映画館だけ、やた
 らとあった……何やってたと思う?」
亜弥「……」
吉美「俺たちに明日はない……本当だ!私達
 にはもう明日はない!過去しかない!」
   二人に患者達の冷たい視線が注ぐ。
吉美「招かれざる客だって?誰が好き好んで
 こんな所に来るか!」
亜弥「(患者達の目が気になって)一寸……」
吉美「こんな所……こんな所に来るくらいな
 ら、死んだ方がましだ!!
 (『帰って来たヨッパライ』を歌って)…
 …天国って何?キャバクラ!?キャハハハ
 !(バカ笑い)」
   亜弥、吉美の手を引き、その場を去る。

○ 矢野デザイン・雑居ビル外観
矢野の声「すみませんね、お忙しいのに」

○ 同・オフィス
   慌しく荷物が運び出されている。
   矢野仁(五五)が浩美にお茶を出す。
矢野「今日中に移転しなくちゃいけなくて」
浩美「いいえ」
矢野「……本当、佐藤君、よくやってくれて、
 残念なんだけど……彼女も分かってくれて
 ると思うけど、会社としては……リストラ
 と、若返りも必要でしてね……」
浩美「……リストラ……若返り」
矢野「そうでしたか。急に一人旅に」
浩美「そうなんです……ケータイも置いて」
   矢野、紙袋を取って来て、浩美に渡す。
矢野「これがその、彼女が置いてった……」
   中には……古いリカちゃん人形。
浩美「!?まだ、こんなの持って!?」
矢野「リカちゃん?いつも机に飾ってました」
浩美「……不二美ちゃんって呼んでたんです。
 母が、これは二人のシンボルなんだって。
 吉美と浩美の双子は二人であって二人でな
 い、一体で不二の美なんだから……お互い
 を思い合って、仲良くしなさいって」


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