彼×彼女=私2(カレとカノジョはワタシの事情)
内容紹介
『カレとカノジョはワタシの事情』【ノベル形式】
「若返りの遺伝子」を操作した!?
若返り過ぎて前世にまで戻った!?
前世での自分は現世での自分の父親だった!?
佐藤吉美は、究極美術研究所が発見した「若返りの遺伝子」を操作したところ、若返り過ぎて赤ん坊になり、さらに若返って姿を消してしまう。
タトゥーアーティストの佐藤浩美は、一卵性の双子である吉美が自分と同一であった遺伝子を操作したことに驚き、戸惑い、彼女の足取を辿って行く。
超高齢社会に突入したこの国で、かつて、多くの新産業、新業種の半分以上を創出していた大阪のルネサンスを目指した野心家に巻き込まれた、それぞれの事情とは?
被害者の事情
4-5《複雑な家庭の事情》
不二美が重い身体を引き摺るように歩いていると、ここの病院はいつもこんなに騒がしいのか、所々から人の叫ぶ声が響いていた。
「しっかりして! やっぱり嫌や、あんな奴がワタシのおじいちゃんやなんて! 頑張ってアンタがおじいちゃんになってぇや!」
「あるんや――生まれて来ない方が幸せな命って」
「――だから、責任もって妊娠させて」
「――分かった。やるわ」
屋上からはこんな声もしていたが、不二美はまずイケメン君を捕まえることに必死で、雑音はシャットアウトしていた。
すると、不二美の思いは通じたのか、ようやく中庭でイケメン吉美を捕まえることが出来た。
「こらっ! 佐藤吉美!」
不二美が大声で叫ぶと、その声に、イケメン吉美は振り返った。
「ちょっと待って! これ!」
不二美はリタちゃん人形を差し出して、不二美マークを見せた。
「あぁ?」
「そや! これ持ってた人はお姉ちゃんや! その人に会いたいねんけど、ワタシの身体、こんなやし――助けて欲しいんや!」
「お姉ちゃんて――それくれたん、しょぼいオッサンやぞ」
「え? 会うたんか?」
「そいつも自分のこと佐藤吉美や言うて」
「何やて? 何でそれ早よう――」
「それやったらすぐ見つかるで。心療内科の医者や」
「お姉ちゃん――お父さん?」
「複雑な家庭やな。あ?」
「お母さん――何すんねん」
「いや――やっぱりオレやったかも知れへんで、父親。どうする? とりあえずエッチしてこうか? あ?」
「とりあえずて――」
「でも、もし、どっちの佐藤吉美も成美とエッチせぇへんかったら、吉美も浩美も生まれて来なくなんねんで」
「そらそうやけど――」
現世で浩美はよく知人から「ソックリさんを見た」と言われていた。その時は双子の姉=吉美を見たのかと思ったが、下手をしたらこの女好きが前世であっちこっちにキョウダイを作っているのかも知れへん。
そんな嫌な予感をさせる雰囲気をこのイケメン吉美は持っていた。
「逆に両方とエッチする分には、問題ない。ま、気にせんと」
「あのね!」
不二美は怒って、イケメン吉美の足を思いっ切り踏んでやった。非力な少女とはいえ、これは痛かった。
「――分かった。待つわ。待ったらええねんやろ。あ?」
「まずはお姉ちゃんと会うてからや」
イケメン吉美は不二美を抱き上げて、院内を歩き始めた。
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