彼×彼女=私2(カレとカノジョはワタシの事情)
内容紹介
『カレとカノジョはワタシの事情』【ノベル形式】
「若返りの遺伝子」を操作した!?
若返り過ぎて前世にまで戻った!?
前世での自分は現世での自分の父親だった!?
佐藤吉美は、究極美術研究所が発見した「若返りの遺伝子」を操作したところ、若返り過ぎて赤ん坊になり、さらに若返って姿を消してしまう。
タトゥーアーティストの佐藤浩美は、一卵性の双子である吉美が自分と同一であった遺伝子を操作したことに驚き、戸惑い、彼女の足取を辿って行く。
超高齢社会に突入したこの国で、かつて、多くの新産業、新業種の半分以上を創出していた大阪のルネサンスを目指した野心家に巻き込まれた、それぞれの事情とは?
夢想家の事情
5-6《世界は二人のために》
表彰式を終えると、アツコは会場を飛び出して、男・吉美を押し込めたトイレに駆け込んだ。
その男子トイレの個室の中で、アツコは気絶していた男・吉美を叩き起こすと、「夢講演大会」で男・吉美になりすました自分が、佐藤吉美が優勝したことを伝えた。
男・吉美はどこの星の言葉か分からないような音を口から出して驚いた。
アツコは現世、生まれ直しへ、最後の一押しをした。
「――だから、責任もって妊娠させて!」
「――」
黙って目を逸らす男・吉美に遂に業を煮やして叫んだ。
「若返りの遺伝子、操作して、ワタシらまた前世の前世に戻るかも知れへんのや! 前世の前世でまた会えるかも知れへんやんか! そやから――そやから、今回アンタは男やねんから、腹くくらんかい!」
この一言に、男・吉美の中の何かが奮えたようやった。
アツコと男・吉美は目と目で言葉を交わした。
どれくらいの間があったやろうか。
アツコは男・吉美に唇を重ねた。
――その日の夜は上弦月やった。
――勤務を終えて帰宅しようとする成美の前に男・吉美が現れた。
「あら? あの、リタちゃん、ありがとうございました。不二美ちゃん、大喜びで」
「そう。そりゃー良かった――ね、少しだけ つき合えへん?」
と言って、男・吉美はチョコフリークを成美に見せた。
――病院の屋上で男・吉美は、微笑んで成美の前に跪くと、『世界は二人のために』を歌い始めた。
――男・吉美が成美を連れて真っ暗で人気の無い手術室に来た。
「もっとロマンチックな所かと思った」
「そう? ロマンチックちゃうか? 静かやし――誰もおらんし」
そう言うなり、男・吉美は成美を強く抱きしめ、激しく求めた。成美もそれに応えた。
一言、こう言い添えて。
「知ってる? ワタシが、ワタシのことを分かってくれる人を引き寄せた――って」
――屋上では一人、アツコが空を眺めていた。
――彼女から少し離れた陰には不二美とイケメン吉美の姿もあった。
――やがて、男・吉美とアツコと不二美とイケメン吉美が若返り始めた。若返って若返って、若返り過ぎて、赤ん坊の姿になり、遂には身に纏っていた物と、不二美マーク付リタちゃん人形を残して、姿を消してしまった。まるで蒸発するかのように――。
――それから、どれくらい時が流れたか。
――朝、成美は眠りから覚めた。
――そこは千里ニュータウンにある成美の自宅やった。
――この日、町は活気に満ちていた。遂に訪れた大阪万博開催の日やからやった。
――成美は起き上がると、大きくなったお腹をさすって、ニッコリと微笑んだ。
――そして、「それにしても変な夢を見たわ」と呟いた。
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