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愛3 愛の惨状

内容紹介
『愛3 愛の惨状』【シナリオ形式】

 後ろめたい気分の北村高志。今、東京のビジネスホテルの一室に三田涼子と二人っきりでいる。
 涼子は北村の幼馴染で親友でビジネスパートナーである小林啓二の元彼女。モトカノとはいえ、小林が涼子に未練たっぷりで復縁を強く迫っていることを、北村はよく知っていた。
 “北村と小林”のビジネスは行き詰まり、二人は今後の身の振り方を模索していた。同時に“北村と涼子”の二人も今後の身の振り方を模索していた。今後の身の振り方を模索していた。
 そんな時、北村が探偵として雇っていた、やはり幼馴染の天野等が厄介な情報を持ち込んで来た!

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愛3 愛の惨状(1/2)

○ 東京の街

○ ビジネスホテル外観

○ 同・一室
   奥、中央から上手側は奥ばった形にな
   っていて、中央から下手側は出っ張っ
   た形(ユニットバス)になっている。
   奥、上手側には出入口のドアがあり、
   その上部に小さな覗き穴がついている。
   登場人物の出入りはそこからのみ可能。
   下手にベッドがあり、足元(上手側)
   に付属の台がついている。
   その付属台の上に少し派手な色のスマ
   ートフォンが置かれている。
   上手にはクローゼットがある。
   クローゼットの手前にはテーブルが置
   いてあり、その周りを3台のソファー
   (テーブル手前、ベッド側、クローゼ
   ット側)が囲んでいる。
   テーブルにはバーボン『コールドター
   キー』のボトルとグラス、氷、ミネラ
   ルがある。

   ドアの前で北村高志(43)と三田涼子
   (25)がじゃれ合っている。
   北村はカジュアルな服装。
   涼子はいわゆる他所行きの服装。
   どことなくミステリアスな女。
涼子「じゃ、先、帰ってるから」
北村「アカン。帰せへん」
涼子「しゃーないやん。急用出来たんやから」
北村「せっかく早目に来たのにィー」
涼子「仕事や言うて(微笑)社長、ホンマの
 事知ったら何て言うやろ」
北村「小林の事は思い出ささんといてくれ」
涼子「(笑い)何? 後ろめたいン?」
北村「(激しい口調で)アホ! 俺は一度も
 小林、裏切った事ないんや!」
涼子「へー。彼、まだ私に未練あるン知って
 て?」
北村「(かなり激しい口調で)アホ! 俺は
 小林! ……小林、小さい時から一度もな
 ァ!」
涼子「!? ごめんごめん……」
北村「俺……小林はなァ!……」
涼子「ごめんごめん。分かった分かった」
北村「アホ……(抱き寄せる)」
涼子「(離れて)でもいつまで隠してるン?」
北村「例のが決まって、落ち着いたら話す。
 今はまだ……小林には秘密や。それより…
 …涼子!(と、抱き寄せる)」
涼子「(笑い、離れて)ごめん。ホンマ今日、
 アカンねん。帰ったら何でもアンタの好き
 な事つき合うたるから」
北村「ホンマ? 耳たぶ噛み放題とか?」
涼子「(笑い)アホ。映画とかや」
北村「何でも言うたやんけ(抱き寄せて)他
 にも噛みたいとこあンねん」
涼子「(笑い、離れて)枕で練習しとき」
北村「俺は中学生か(涼子の耳たぶに触れて)
 涼子のお気に入りの技。必殺……」
涼子「スペシャル・ローリング・ワンダー」
   北村と涼子、笑う。
涼子「じゃ。あまり飲んだらアカンで」
   涼子、出口のドアを開けて、退場。
   ドアが閉まる。
北村「アホ。これが飲まんでおれるかい」
   北村、一番手前のソファーに座り、水
   割りを作る。グラスに指を入れて掻き
   混ぜ、その指を舐める。
北村「今日はこれで人間やめたる」
   ウイスキーを足し、指を入れて掻き混
   ぜ、グイッと飲む。
北村「……」
   ミネラルを足し、指を入れて念入りに
   掻き混ぜる。
   ドアをノックする音がする。
北村「涼子!? 戻って来た!? (ドアに近づ
 き)さあ、僕の胸に飛び込んでおいで!
 (と、ドアを開ける」
   天野等(42)が入って来る。金髪で、
   いかにもガラの悪そうな男。
   北村、嫌そうな顔で迎え入れる。
天野「何か期待外れやったみたいやのう」
北村「いや、気にせんといてくれ……大阪帰
 ったら噛み放題が待ってンねん!」
天野「何? 何ホウダイ?」
北村「いや……で、どうだったかね。天野君」
天野「そっちも期待外れや」
北村「そう……こういう日は続くんよ」
   北村は元の席に、天野はクローゼット
   手前のソファーに座る。
天野「帰って来るで、竹本加代。実家の焼肉
 屋、全国チェーンにするて、えらい鼻息や」
北村「やっぱりか……」
天野「(ポケットから鍵を取り出し、北村に
 投げ渡して)証拠はロッカーや」
北村「お祖母さん、百歳やったっけ?」
天野「あの豪傑ババァが死ぬぐらいや。そら
 日本の人口も減るはずやで」
北村「あの婆さんも人間やったんか」
天野「(噴出して)この前、嬉しそうに……
 (婆さんの真似で)遂に来たで、オレオレ」
北村「はァ?」
天野「(婆さんの真似で)アンタとこは? 
 何や、まだかいな(笑い)来たで、ウチは」
北村「(笑い)自慢しとン?オモロイ婆さん」
天野「……あの加代が本気出したら恐いで」
北村「あぁ……また小林、煽られよるな」
天野「同じ外食産業や。そら燃えよるで。一
 時はカリスマ経営者としてテレビのマネー
 の龍に出とったぐらいや。マネーゲットで
 す! とか言うて(冷笑)笑わっしょるで」
北村「まずいなァ……」
天野「加代に不細工なとこ見せられへんやろ
 ……おい北村、ワシにも一杯くれや」
北村「一杯だけやぞ」
   北村、水割りを指で掻き混ぜ、天野に
   差し出す。
天野「あ……汚いな、お前」
北村「加代のアホ……ずっとマラソンやっと
 ったらええのに」
天野「なんぼ加代でも一生は走られへんで」
北村「で、南アフリカにコーチとして請われ
 て、金メダル取らせて……加代にしても頃
 合ってことか」
天野「全国チェーンや。コーチングも上手い
 し、従業員も育てよるで」
北村「加代のアホ……焼肉なんか焼かんと家
 でも焼いたらええんや」
天野「客も大分取られるやろな」
北村「加代のアホ……アフリカでシマウマの
 子供でも産んどったら良かったんや」
天野「ま、今日中にも小林、説得するんやな」
北村「来るンは明日や」
天野「明日?」
北村「今日来るンやったらお前呼ばんわい」
天野「それもそうやな」
北村「何でお前あんなに嫌われてんねん?」
天野「(笑い)不思議やろ?」
北村「別に不思議やない。けど異常や」
天野「ワシとつき合うてる事バレたらお前も
 やばいぞ」
北村「昔の馴染みやから雇うただけや」
天野「どっちでも一緒や。けど、明日? …
 …確か由美も明日……」
北村「由美? 由美て、平山由美?」
天野「何やお前、知らんかったンか?由美、
 離婚してまた絵書き始めたんや。ほんで、
 こっちで個展……この情報料、別で貰うぞ」
北村「加代と由美!? ダブルか!?」
天野「(笑い)面白くなりそうやな」
北村「笑い事か!」
   北村、一呼吸して水割りを飲む。
北村「天野、絶対秘密やぞ。ええな!」
天野「別にええやないか。二人に煽られて、
 お前ら二人も一からやり直したら」
北村「調子こいて、拡張して……今、借金ナ
 ンボある思てんねん」
天野「(笑い)商売は失敗するわ、女には逃
 げられるわ。ヤケクソにもなるわのォ」
北村「(天野をチラッと見て)……」
天野「小林もかわいそうに……ひどい奴がお
 ったもんや」
北村「……ともかく、早う、説得せんと」
天野「せっかく伯父さんの会社から誘うても
 ろてンからな」
北村「葬儀会社なんか、小林は嫌か知れんけ
 ど……けど、生活は安定する」
天野「そしたら結婚も出来ると……」
北村「……」
天野「ところで、報酬やけどな」
北村「証拠確認が先や」
天野「お前、プロの探偵、疑うてんのか?」
北村「信用されてる思うてたんか? 凄いや
 っちゃのう」
天野「何? ワシ、一遍でも嘘ついたか?」
北村「四分六で嘘が多い!」
天野「何やと? 由美情報まで教えたったや
 ないか!」
北村「それも怪しいモンじゃ!」
   ドアをノックする音がする。
北村「……誰じゃこのクソ忙しい時に」
   北村、ドアに近づき、覗き穴から外を
   見る。
北村「小林!?」
天野「何!?」
北村「(天野の方へ駆け寄り)!? 小林や!
 何で今日!? ……おい、天野!隠れろ!」
天野「(驚き、慌てて)隠れるて……」
北村「(周りを見回し、クローゼットを指し
 て)そこ!そこ入っとけ!」
   天野、クローゼットの中に隠れる。
北村「すぐ酒で潰して寝かすから。それまで
 隠れとけ」
   北村、クローゼットの扉を閉める。
北村「……はーい!」
   北村、入口ドアに近づき、開ける。
   小林啓二(43)が入って来る。
   なかなか洒落たジャケットを着ている。
北村「あれ?どうした?」
小林「いや……」
   小林、うろうろ歩く。
北村「あ……一寸軽くやってたんや。飲めへ
 んか?」
小林「新宿はどうやった」
北村「うーん……もう飽和状態やで、東京は。
 本社移転としては……どうかなァ」
小林「けど思うやろ? どこも本社機能、東
 京移転して。取引契約しよう思うてもみん
 な東京にお伺いや。大阪では何も決済でき
 へん。今の大阪、スカみたいやで」
北村「確かに現場に決定権のない大阪は東京
 の植民地みたいや。けど、もし俺らまで東
 京シフトしたら、大阪はどうなる?」
小林「お前、あてにならん思うて俺、昨日か
 ら移転先見て回ってたんや」
北村「え!? ……ま、座れや。水割り、どや
 ?」
小林「指で混ぜるなよ」
北村「あ……ああ」
   北村、元の席に戻る。
   天野の水割りが残っている事に気づく。
   焦って小林の方を見る。
   が、小林は他所見している。
小林「色つく程度でええで」
   北村、ドキッとして、天野のグラスに
   ミネラルだけを足す。
北村「はい出来上がり」
   小林、元の天野の席に座り、チビッと
   だけ水割りを飲む。
小林「あぁ……やっぱりコールドターキーは
 ええなあ」
北村「これ飲んだら思い出すな。ブライアン
 トの4連発」
小林「ラルフ・ブライアント。ドラゴンズの
 二軍で寝かされてた男が……あれだけの仕
 事するンやもんな」
北村「そうや。俺らも何かが出来る」
小林「(頷く)」
北村「けど……」
小林「けど? けど、考えは変わらんか?や
 っぱり移転は反対か? 起死回生。一発逆
 転」
北村「小林……」
小林「またサラリーマンやるか? 運転士か
 らやり直せてか? ガラの悪い応援団乗せ
 て」
北村「けど、ここまで借金膨らんだら……」
小林「……伯父さんの葬儀会社?」
北村「(頷いて)うん」
小林「日本の人口が減少する。あるシンクタ
 ンクは一兆円産業になるて言うてる」
北村「そ、そうなんか?」
小林「お前、何も知らンと誘うてたんか?」
北村「いや……ま、一寸は聞いてた……」
小林「葬儀の形も変わって来てる。金かけて、
 音楽葬とか、エンタテインメント性を取り
 入れようとする傾向もある」
北村「エンタの仏様か?」
小林「上手いことやったらクールジャパンが
 新しい葬儀ビジネスと結びつくかもしれん。
 ……オモロイで。これから」
北村「そうか……そうなんや……」
小林「伯父さんの会社、世話ンなるで」
北村「え!?」
小林「(ニヤリと笑う)」
北村「ホンマか!?」
小林「おう! 決めたで!」
北村「小林!」
小林「俺は愛に生きる!!」
北村「はぁ!?」
小林「昨日……都内ぶらぶら回ってたら、涼
 子に似た子、見てな」
北村「え!?」
小林「ほら、あの……犬の像の前」
北村「見た? ……涼子?」
小林「分かったんや。やっぱり俺にはああい
 う女が必要なんや!ああいう女さえおった
 ら、俺はどんな所でも、何でも出来る!」
北村「え!? ど、どういうことや!?」
小林「アゲマンちゅうやつや。会社うまくい
 かんようなったンは涼子、粗末にしたから
 や」
北村「そ……そうかな……」
小林「男は選んだ女で人生が変わる。去年イ
 ―グルス優勝させたんはあの大エースと違
 う。あの女のパワーや」
北村「ホンマかいなそれ」
小林「俺には涼子みたいな清楚で一途な女が
 必要なんや。移り気な女選んだら人生も移
 り気になるんや」
北村「清楚で一途、ねぇ……」
小林「女ってどうしても安定望むやろ。涼子
 も……涼子を取り戻す! 愛の為や! お
 前の望み通り、伯父さんの会社、就職する
 で」
北村「そ、そうなの? ……愛の為なの?」
小林「そうや。せやからそんな憂鬱そうな顔
 せんと喜んでくれ。お前の望み通りや」
北村「そう……」
小林「どないしてん? 嬉しないンか?」
北村「ホンマに、そンで、ええンかなァ……」
小林「もうええで、女で失敗……」
北村「え? 何やて?」
小林「うるさい! 思い出さすな! とにか
 く、俺は愛に生きるンじゃー!」
北村「……けど、涼子はどうかなぁ。別れて
 一寸なるし。もう他にええ男おるて聞くで」
小林「ええ男? どうせストーカーみたいな、
 しょうもない奴が付き纏うてンねやろ」
北村「そ、そんな事ないやろ!」
小林「何でそんな事言えンねん?」
北村「そら……涼子、ええ女やし……ええ男
 選ぶやろ」
小林「(ニッコリと)そや。その通りや」
北村「涼子が愛する男も1人や」
小林「オンリーワンや。唯一、涼子を喜ばせ
 る男。オンリー……ミーや」
北村「喜ばす?」
小林「お前、知らんやろ?涼子な、耳たぶ噛
 まれるン好きやねん。俺の技に名前つけて。
 何ていう、思う?」
北村「?」
小林「スペシャル・ローリング・ワンダー!」
北村「……」
小林「(笑い)スペシャル・ローリング・ワ
 ンダーやて。何か凄い? 何か凄いやろ?
 どっかで聞いた様な名前やけどな(笑い)」
北村「(急に大声で)小林!!」
小林「!? 何や、急に!? 」
北村「俺はお前に発破かけとったんや! 逆
 の事言うて!」
小林「あぁ?」
北村「俺はお前が本社東京に移して本気でや
 り直す事望んでたんや!」
小林「何やて?」
北村「そやのに、女の事でとち狂うやなんて、
 ガッカリやで小林!」
小林「北村!? ……」
北村「小林、実はな……」
小林「?」
北村「加代が帰って来るんや」
小林「カヨ?」
北村「そうや! 竹本加代や! 実家の焼肉
 屋、全国チェーンにするて」
小林「加代が!? 焼肉屋!?」
北村「全国展開。ウチと張り合う事になるで」
小林「あいつが……あいつが商売やる!?」
北村「それ聞いて引き下がれるか!?」
小林「加代、か……」
北村「加代だけと違う。由美も、平山由美も
 また画家として動きよる」
小林「由美!?」
北村「離婚して子連れ絵描きや」
小林「離婚したやて!? 由美が!?」
北村「あいつら……刺激しやがって」
小林「あの二人とラルフと大震災が無かった
 ら俺、今もサラリーマンや」
北村「俺も。一介の料理人や」
小林「……加代は? 加代は今も独身か?」
北村「ああ? ……ああ。みたいやな」
小林「そうか負け犬か! 俺は違う! 俺は
 結婚するぞ! 勝った! 加代と由美に勝
 った!」
北村「ええっ!?」
小林「ご苦労!本社移転調査終了! 帰ろう
 !」
   ドアをノックする音がする。
   小林がご機嫌でドアに近づき、覗き穴
   から外を見る。
小林「おーッ!」
北村「!?(ドアの方を見る)」
小林「涼子!!(と、ドアを開ける)」
   涼子が入って来る。
北村「(涼子を見て驚いて)ええっ!?」
小林「涼子!? 何でここに!?」
涼子「(驚き、焦って)あ、あの……」


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