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ぼくとともに若返って!

内容紹介
『ぼくとともに若返って!』【シナリオ形式】4/4

「若返りの遺伝子」を操作した!?
 若返り過ぎて前世にまで戻った!?

『カレとカノジョはワタシの事情』【ノベル形式】,『グロー・ヤング・ウィズ・ミー』【シナリオ形式】。その前はこんな話だった。


ぼくとともに若返って!_page-0001

○ 同・研究室・穴の中(夕)
   がらんとした場所に懐中電灯の明かり
   が一つあるだけ。丈二、美幸とロープ
   で縛られた高木。
高木「松中君だけならともかく……星君も出
 るんやろ?」
丈二「?」
高木「勝てないよ彼には……」
丈二「……」
高木「時代かな……これからは大学進学者も
 増えるやろうし、競争が激しくなる。大学
 側も彼をスターにして世間にアピールする
 つもりなんや」
丈二「……」
高木「それに……もう大学は私が必要ないっ
 て。そういう意味やろ。企業さんへの派遣
 の話を持って来たんは」
丈二「!!」
高木「だからもう……」
丈二「(激怒)だからやあるかーっ!!」
   ドアの開く音が聞こえる。
美幸「(小声で)シーッ!誰か来た」
   丈二、突然黙る。美幸が素早く高木の
   口をタオルで縛り、親指を立ててOK
   の合図。その手捌きに丈二は感心する。
   人の歩く足音が響く。何やら書類を触
   る音がする。暫くして、再び人の歩く
   足音が響く。ドアの締まる音がする。
   足音が遠のいて行く。
美幸「(小声で)OK!どうぞ」
丈二「……おおきに」
   間。
丈二「……それで、ええんか?」
高木「……」
丈二「(立って)こんな事、思った事ないか
 ……この世に自分自身が生まれて来たって
 事に……疑問の入り込む余地は全くない。
 決定的な厳粛な事実や」
高木「?」
丈二「これから一生涯生き抜いて行かんなら
 ん事も……明白な、原因結果の人生航路と
 なるやろうって。二一世紀がどうなってる
 か?その結果は、今がどうか……どういう
 原因を作ったか、考えたら分かるやろ」
高木「……」
丈二「優秀な資質を俺は持っているとは思わ
 ん!けど己自身という個性は、誰にも無い
 ことを知ってる!せやから!自身の使命に
忠実に振る舞う事が正しい!!」
美幸「……」
丈二「そうか!負けか!お前は負けか!終わ
 りか!もうお前は終わりか!勝手にさらせ
 や!俺はこのまま終われへんぞ!終わって
 ……終わってたまるかい!!」
   「うっ」と胸をおさえてしゃがみ込む。
美幸「いやーっ!!……だ、大丈夫ですか!?」
高木「!……」
丈二「(息が荒い)大丈夫……しかし俺は一
 体いつから高血圧に悩まされてるんやろ」
美幸「……高血圧?大丈夫ですか!?」
丈二「(徐々に落ち着く)大丈夫……」
高木「……」
   丈二、ペンを取り、何やら書き始める。
   そんな丈二を見つめている美幸。
丈二「(高木に)それでも、学長になる」

○ 同・講堂・外観(夜)

○ 同・講堂・正面入口(夜)
   『夢講演大会』の立て看板が出ている。
   大きな拍手が鳴り響いている。

○ 同・講堂・内(夜)
   壇上には教授達が並んでいる。
   司会は左隅に立っている。
司会「さすが、五年ぶりのグランプリ最有力
 候補とされる注目の人、星大輔助教授でし
 た。……さて、次は夢講演大会ではお馴染
 みになりました!松中太郎助教授です!」
   松中が演台に向かう。
司会「タイトルは、『将来心配な人の為に!
 漢方による毛生え薬』です!!」
   場内に大きな拍手が沸き上がる。
   松中を見つめる岡田麗子(二八)。

○ 岡田麗子の笑顔
   五年前の麗子の写真。彼女を挟んで両
   端に高木と松中が写っている。
丈二の声「ベッピンやんけ!」

○ 阪神大学・研究室・穴の中(夜)
   高木はまだ縛られたまま。
丈二「(高木に)隠すんやったらもっと分か
 りにくいとこ隠せよ」
高木「……」
丈二「娘はもっと可愛いで。気ぃ強いけど」
   高木に写真を返し、立ち上がる。
美幸「……」

○ 同・講堂・正面入口(夜)
   大きな拍手が鳴り響いている。

○ 同・講堂・内(夜)
司会「夢講演大会、いよいよ最後の登壇とな
 りました。この方もお馴染み、常連です」
   壇上を見つめる麗子。
司会「高木哲悟朗助教授!タイトルは、『い
 ざ、神の領域へ! 生命の設計図・遺伝子
 を操作する』です!!」
麗子「!」
   場内に大きな拍手が沸き上がる。
   高木に変装した丈二が演台に向かう。
   アフロヘアーのカツラに黒縁の眼鏡を
   かけている。
   丈二、壇上から麗子を探す。
丈二「(麗子を見付けてじっと見つめる)」
麗子「……」

○ 同・研究室(夜)
   壁の前田美波里のポスター。

○ 同・研究室・穴の中(夜)
   パンツ一丁姿の高木。懐中電灯の明か
   りで写真を見ている。写真―麗子の顔。

○ 満月(夜)

○ 阪神大学・講堂・外観(夜)

○ 同・講堂・内(夜)
   壇上、緊張した面持ちの司会。
司会「さて、最後に……何と、五年ぶりのグ
 ランプリを発表致します!!」
   場内が静まり返る。丈二の緊張した顔。
   興奮気味の松中の顔。麗子の微笑。
司会「高木哲悟朗助教授!!」
   場内に大きな拍手が鳴り響く。
丈二「(ガッツポーズ)よっしゃーっ!!」
   丈二、派手にガッツポーズして、麗子
   の方を見る。麗子の満面の笑顔。拍手。
   松中、ガッカリするが、すぐに晴れや
   かな顔をする。そして丈二に歩み寄り、
   力強く握手する。
松中「(丈二の顔を覗いて)?」
   丈二、何度もガッツポーズをする。
   松中、首を傾げながら退場して行く。
   まだ拍手が鳴り止まない。

○ 同・廊下(夜)
   丈二が麗子を抱きかかえて、猛然と走
   って来る。

○ 同・廊下・研究室前(夜)
   丈二、麗子を抱きかかえて、猛然と走
   って来て、入口の所で降ろす。
丈二「すぐ来るから。一寸待ってて」
   丈二、研究室に飛び込む。

○ 同・研究室(夜)
   丈二が飛び込んで来る。
   前田美波里のポスター。丈二がめくり、
   穴の中に入る。

○ 同・研究室・穴の中(夜)
   高木が写真を見ている。
丈二「やったぞ!優勝や!」
高木「嘘?」
丈二「俺の言うことはみんな嘘かい!廊下で
 ミス阪神大が待ってる!行って来い!」
   丈二、カツラと眼鏡を外して服を脱ぎ、
   高木のロープを解く。
高木「でも……」
丈二「ええから行け!優勝したんはあんたや。
 高木哲悟朗!後の阪神大学学長や!」
高木「……あ、ありがとう」
丈二「手荒い事したけど、許してな」
高木「も、勿論。ミス阪神大と結婚できるん
 や……何でも許すよ」
丈二「(服を着替えながら)ほんまか?」
高木「(服を着ながら)感謝してる」
丈二「すまん。一寸だけ、オッパイ触ってし
 もうてんけど、その事もついでに許せよ」
高木「……」

○ 同・廊下・研究室前(夜)
   麗子が待っている。高木が出て来る。
   麗子、高木に抱きつく。
   高木、麗子を抱擁する。

○ 同・研究室(夜)
   丈二。窓から月を眺めている。
   美しい満月。
   美幸が入って来る。
丈二「(美幸に気付いて)?」
   美幸、丈二の横に並んで月を眺める。
美幸「大仕事、ご苦労様でした」
   二人、向き合い、また月を眺める。
丈二「一仕事終えて……わらわは月に帰らね
 ばなりませぬ(かぐや姫の真似)」
美幸「月?二一世紀に帰るんでしょ?」
丈二「お迎えが参りませぬ」
美幸「……どうすれば、二一世紀に帰れるん
でしょうね」
丈二「アトムが迎えに来てくれたらね」
   二人、見つめ合う。また月を眺める。
美幸「……人間が月に行くって本当?」
丈二「おお。いつやったかな……もうすぐや
 でアポロ月面着陸」
美幸「人間て、凄いんですね。何だってでき
 るんですね」
丈二「一念岩をも通す、って言うやろ」
美幸「……」
丈二「あれもケネディの一念に始まったんや。
 ケネディが絶対月に人間を送るって、心に
 強く決めたからそうなったんや」
美幸「科学の発展も、みんなそうですか」
丈二「そう。強く決意したら、君を月に連れ
 ていく事もできる」
美幸「月は……ええわ」
   美幸、丈二の肩にもたれる。
美幸「天国に連れてって」
丈二「!?」
   二人、顔を合わせる。
   そして、そっと唇を重ねる。
   丈二、美幸を抱きかかえて歩く。
   歩く先。前田美波里のポスターを貼っ
   ている壁。
丈二「二人、思い出の場所」
美幸「(笑う)まあ、ロマンチック」
   二人、ポスターをめくって、穴の中に
   入る。ポスターが穴を隠す。
   ポスター前田美波里の挑戦的な眼差し。

○ 満月(夜)

○ 阪神大学・研究室・穴の中(夜)
   真っ暗。
   丈二と美幸の影。肌を露わに、重なり
   合っている。二人の喘ぐ声。
   美幸の声がますます甲高くなっていく。
丈二「み……美幸!」
美幸「ううん。洋子!洋子て呼んで!」
丈二「何?」
美幸「隠してたけど……私、ほんまの名前は
洋子。佐藤洋子……佐藤健教授の娘……」
丈二「さ、佐藤健教授の娘!?」
   「うっ」と、胸をおさえ、真弓の上に
   倒れ込む。息が荒い。
真弓「大丈夫!?」
丈二「……(息が荒い)」
真弓「大丈夫?……五〇過ぎてからの子で恥
 ずかしくて……それに、教授の娘やからて
 特別扱いされるの嫌やし。それで偽名を」
丈二「(息が荒い)と、言う事は……お前は
……」
美幸「え?何?」
丈二「(息が荒い)俺の……俺の……」
美幸「え?何?洋子って呼んで!ねえ!!」
丈二「お母さん!!」
美幸「ええ!?」
   丈二、グッタリとなって動かなくなる。
美幸「どうしたの?ねえ?……どうしたの?
 ……大丈夫?」
   美幸、丈二を揺さぶる。が、ぶらぶら
   揺れるだけで反応がない。
美幸「!!」

○ 前田美波里のポスター
   美幸の悲鳴が響く。

○ 満月(夜)
   雲が覆い隠す。

○ 阪神大学・外観

○ 同・廊下
   五歳位の幼児(丈二)が遊んでいる。
   手に持っているマジンガーZの人形。
   そこは職員室前。職員室から洋子(二
   三)が出て来る。彼女はあの時の美幸。
洋子「(その幼児に)丈二ごめんね。しゃー
 ないお爺ちゃんやね。お弁当忘れて」
丈二「お爺ちゃん何してんの」
洋子「お爺ちゃんね、ここの先生やねんで」
丈二「僕ずっと、いい子にしてたで」
洋子「そう。偉いねぇ」
丈二「いい子にしてたで」
洋子「……あかん。この前それ(マジンガー
 Zの人形)、買ってあげたやろ」
丈二「買ってないやん。これ、お母さんが仕
 事して、売って……ほんで貰うたんやから、
 買ってないもん」
   洋子、丈二の手を引いて歩く。後ろ姿。
洋子「これなかなか買われへんねんで、よう
 売れてて」
丈二「ふうん」
洋子「……実はお母さんな、これ、最初から
 売れるて分かっててん。それで玩具会社に
 教えてあげてん。これ売れるで、って」
丈二「ふうん。それも死んだお父さんが教え
 てくれたんやろ?」
   二人の歩く後ろ姿が小さくなって行く。
            ― 終わり ―


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