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愛3 愛の惨状

内容紹介
『愛3 愛の惨状』【シナリオ形式】

 後ろめたい気分の北村高志。今、東京のビジネスホテルの一室に三田涼子と二人っきりでいる。
 涼子は北村の幼馴染で親友でビジネスパートナーである小林啓二の元彼女。モトカノとはいえ、小林が涼子に未練たっぷりで復縁を強く迫っていることを、北村はよく知っていた。
 “北村と小林”のビジネスは行き詰まり、二人は今後の身の振り方を模索していた。同時に“北村と涼子”の二人も今後の身の振り方を模索していた。今後の身の振り方を模索していた。
 そんな時、北村が探偵として雇っていた、やはり幼馴染の天野等が厄介な情報を持ち込んで来た!

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愛3 愛の惨状(2/2)

北村「あ、ああ……よく分かったね、小林が
 来てるって」
涼子「え? ……ええ」
小林「俺が? 知ってて?」
北村「そう、ここにおる気がしたんや?」
涼子「そ、そう……」
小林「でも、何でまた?」
北村「ああ……ほら、いつも使うホテルやか
 ら、ね? ね、ね」
涼子「そう……そう言えば、そうね」
北村「あ!? 見たんや、小林。小林も見たん
 やて。涼子そっくりの人。本人やったんや
 (引きつった笑い)」
涼子「え!? そう……嫌やわ。本人やで。
 (引きつった笑い)……本人やわ」
北村「(小林に)どこで見た、言うたっけ?」
小林「……犬の像の所」
北村「犬の像……ほら、渋谷行った時。ハチ
 公ン前」
小林「違う。ほら、上野の……誰やったっけ」
北村「上野!? 西郷さんの犬!? それやった
 ら普通、西郷さんの像、言うやろ!?」
涼子「そう? それじゃ、私もそっくりさん、
 見たんやわ」
北村「(笑い)そうか! お互い、そっくり
 さん見て(大笑い)」
小林「それでいつも泊まるここのホテル来て
 ? 俺まだチェックインしてへんで」
北村「お……俺の名前や。俺の名前あったか
 ら。それで小林も居てる思たんや!?」
涼子「そ……そうそう。2人いつも一緒やし。
 ただの親友じゃないもン……兄弟みたい」
小林「そうか……よう来てくれた。まぁ、入
 れや」
北村「いや……涼子も忙しいし……今日はす
 ぐ帰るて。な?」
小林「何も言うてへんがな」
北村「小林かて忙しいし……涼子、また大阪
 で。な?」
涼子「あ……うん」
小林「何言うてんねん。涼子、俺に会いに来
 たんやろ?ほんだらええがな。な、涼子」
   小林、涼子をソファーの方に導く。
北村「(涼子に小声で)何で帰って来たんや」
涼子「(北村に小声で)スマホ忘れたんや」
北村「(涼子に小声で)スマホ?」
小林「(北村の方を振り向き、ニヤリと)こ
 れて、運命かな?」
北村「(ドキッとする)……」
   涼子、ベッド寄りのソファーに座る。
   北村と小林は元の席に座る。
   涼子、周りを眺め回す。
   ベッド付属台のスマホを見つける。
涼子「!?」
小林「実は俺も同じ事考えてたんや」
涼子「(ドキッとして)え?」
小林「涼子、縁りを戻そう」
涼子「……」
北村「いや、いきなりそういうのンは、どう
 かなァ」
小林「あん?(と、北村の方を向く)」
北村「別にそういう訳で来た訳じゃ」
小林「俺に会えると思って来たンやろ?」
北村「そやけど、何て言うンかな……揺れる
 女心……そう。揺れてんねん。お前には分
 かれへんねんなァ……涼子の複雑な気持ち」
小林「何でお前に分かんねん」
北村「いや……B型同士やから。ほら、遺伝
 子が近いンやないかな。似てるから」
小林「俺もBやで」
涼子「あの……私も水割り、貰っていい?」
小林「ああ。OKOK」
   小林、ミニテーブルで水割りを作る。
   小林の視線が涼子から外れた隙に、涼
   子は小林の様子を見ながら、そーっと
   付属台のスマホに手を伸ばす。
北村「(涼子を見て)!?(と、涼子の忘れ物
 に気づく)」
小林「(涼子の方を振り向いて)濃い目の方
 が良かったな?」
涼子「(ドキッとして、サッとスマホから手
 を引っ込め)う、ううん。薄くして」
小林「OK」
   小林、水割りを薄める。
   涼子、再度、スマホに手を伸ばす。
   その様子を北村が冷や冷やしながら見
   ている。
   小林、水割りを作り終えて、涼子に差
   し出す。
   涼子、サッとスマホから手を引っ込め
   る。
小林「はい、涼子スペシャル」
涼子「……ありがと」
   涼子のスマホの着信音が鳴る。
   ドキッとする、涼子。
小林「北村。電話」
北村「あ!?」
小林「(涼子のスマホを見て)またスマホ、
 変えたんか?」
北村「お? おお……今度の、可愛いやろ?」
小林「出ろや」
北村「あ、後でええわ……」
小林「仕事相手やったらまずいやろ」
北村「……」
   北村、涼子のスマホを取りに行く。
小林「じゃ、涼子、再会に乾杯!」
涼子「乾杯」
   小林と涼子、グラスを突き合わせる。
北村「(涼子の電話に出て)はい……」
   小林、水割りをチビッと飲む。
   涼子は北村の様子が気になる。
北村「いえ、違います(と、スマホの電源を
 切って、ポケットに入れ、急いで席に戻っ
 て)間違いやった」
小林「涼子、俺、事業から手ェ引く事にした。
 北村の伯父さんの会社でまたサラリーマン
 やる。生活は安定するやろ。そしたら、俺
 と結婚して欲しい!」
涼子「え!?」
北村「そんな、急に言われても……」
小林「(北村に)お前には言うてない!」
北村「涼子、他につき合うてる人おるんや」
小林「知ってるわい!」
北村「えっ!?」
小林「ホンマは見たんや。涼子本人や」
北村「ホンマか!? 小林!? ……」
小林「俺も覚悟決めて言うてるんや」
北村「そ、そうか……ほんだら……皆、話さ
 なアカンな」
涼子「(頷く)」
小林「皆まで言うな……涼子、聞かせてくれ。
 何がええ?え?どこがええねん?」
涼子「ど、どこが、て……」
小林「チャラチャラしやがって……」
北村「(ムッとして)……」
涼子「……」
小林「しょうもない! ただのええカッコし
 ィやんけ!」
北村「おい……言うな……」
小林「そんなんに限って根性なしや。ショボ
 クレのチンピラが」
北村「何やと!? よし! 全部話すから聞け
 !」
涼子「ちょっと……」
小林「(次の北村と同時に)あんな金髪、ど
 こがええんじゃ!」
北村「(先の小林と同時に)涼子は俺のモン
 じゃ! 誰にも渡さん!」
   間。
小林「え? 何やて北村?」
北村「金髪?」
小林「いや……今、何て言うた?」
北村「あぁ? ……金髪が……どうとかって」
小林「そらどうでもええ。涼子は……俺のモ
 ン……やて?」
北村「(右を向いたり左を向いたり)……」
   小林、視線を北村から涼子に移す。
涼子「(俯いて)……」
北村「小林。俺ら、つき合うてるんや」
小林「え? 嘘?……」
涼子「……」
北村「落ち着いたら話するつもりやった……
 分かってくれ……小林が別れてからや」
小林「北村……涼子……」
北村「涼子も落ち込んでたんや」
涼子「それで、彼が力づけてくれたの」
小林「北村……」
北村「分かってくれ……小林」
   小林、席を立ち、2人に背を向け、震
   えている。
小林「ウォーッ!!(大声で叫ぶ)」
   小林、暫くして震えが止まる。と、振
   り向いて北村に近づき、肩を抱える。
小林「大事にしてやれよ。結構不器用な女や
 からな(涼子に)可愛がってもらえよ」
涼子「ありがと」
小林「お前、もう、涼子……」
北村「んん?」
小林「(俯いて)耳たぶ……噛んだんか?」
北村「ああ……スペシャル・ローリング・ワ
 ンダー……エクセレントて呼ばれてる」
小林「エクセレントか……エクセレントがつ
 くんか……」
北村「ああ。素晴らしいんや」
小林「……と言う事は……あれはやっぱり空
 似やったんやな」
北村「ああ。昨日、2人で渋谷のハチ公前に
 は行ったけど、上野の西郷さんとこは行っ
 てない」
小林「そうか……(意を決して)よし! 飲
 もう! 今日は飲もう!」
涼子「うん(ニッコリ)社長、上着」
小林「お、おう」
   小林、立ち上がって、上着を脱ぐ。
   涼子、小林の上着をクローゼットに
   入れようと、開ける。
北村「(それを見て)あっ!?」
涼子「えっ!?」
   クローゼットから天野が転がり出る。
涼子「(驚き、悲鳴)!」
   沈黙。
   天野、冷静に立ち上がり、煙草を取り
   出し、火を付け、吸いだす。
小林「天野? お前、天野か!?」
天野「よう、小林。いつぞ以来」
小林「お前! こんなとこで何しとんじゃ!」
北村「小林、加代の事、こいつに調べてもろ
 たんや」
小林「何やて!? お前、こんな危ない奴、使
 うたんか!?」
北村「加代の事。ただそれだけや」
小林「ただそれだけて……アホやなァ……俺
 もそれでやられたんやぞ!」
北村「やられた、て?」
小林「こいつ……普通、探偵が依頼人の女と
 寝るか?」
天野「あれ? 寛子ちゃん? しゃーないや
 んけ。ええ女やねんから、」
小林「!? 天野……その感じ……その金髪」
北村「金髪!?(立ち上がって)天野!?」
天野「北村、ワシも伯父さんの会社、呼んで
 くれへんか?そしたら生活も安定するやろ。
 そしたら結婚……尊敬する西郷先生に誓っ
 たんや。そうやな?涼子」
   天野、涼子を強く引っ張って立たせ、
   抱き寄せる。
北村「一寸待て!? どういう事や? 涼子!
 一体どないなっとんのや!?」
涼子「あ……あの、ね……」
天野「加代の調査……で、(北村に)お前と
 会うようなったやろ? で、傍に涼子……
 油断したな、北村」
北村「おい……」
小林「(北村に)お前、(天野を指して)こ
 いつの恐さ知らんからじゃ! 相変わらず
 見境なしに手ェ出しやがって!」
北村「涼子……お前が、何でこんなヤクザな
 探偵なんか? ……住む世界が違うやろ?」
天野「決まってるやんけ」
北村「?」
天野「ワシが一番耳たぶ噛むン上手いからや」
北村「な!? ……」
天野「スペシャル・ローリング・ワンダ…
 …エクスタシーて呼ばれてるんや」
北村「涼子!?」
涼子「……揺れる女心……かな? そう、揺
 れてんねん……揺れんねん。」
北村「涼子!? クソッ! 天野!!」
   北村、天野の胸倉に掴み掛かる。
   天野、北村を振り払う。
北村「クソーッ!」
   北村、天野に掴み掛かる。
   天野、北村を振り払う。
   北村、天野に掴み掛かる。
   天野、北村を振り払う。
小林「北村! (北村を捕まえる)やめとけ」
北村「涼子!」
涼子「ごめんね」
   北村、小林の両肩を掴んで俯き、震え
   ている。
小林「天野。涼子。今日のとこは帰ってくれ」
涼子「うん」
   天野と涼子、ドアを開け、出て行く。
北村「(大声で)クソーッ!」
   北村、怒りに震えている。
小林「(北村の肩をたたいて)もう一杯、や
 り直そうや」
   小林と北村、静かに席に着く。
   小林、水割りを二つ作る。
小林「(飲んで)あぁ……やっぱりコールド
 ターキーはええなあ」
北村「(飲んで)……これ飲んだら思い出す
 な、ブライアントの4連発」
小林「あン時、俺はまだ学生やった。無理し
 て東京の大学入ったけど、上には上がおる
 もんや。えらい卑屈な気分やった」
北村「俺はそれ、知らんかった。ただお客さ
 んに切符もろたから誘うただけや」
小林「内野の隅っこの席やのに、お前、勝手
 にネット裏のええ席座って」
北村「だいたい空いてるんや。ああいう席は。
 接待招待用やから」
小林「けど天王山のダブルヘッダーやぞ」
北村「(笑い)最初ライオンズファン機嫌良
 かってんけどな。あれで静かァなって」
小林「今でも鮮明に覚えてるで。バキッ!い
 うて、嘘みたいに飛んだ。あのホームラン
 で優勝決まったんや。ラルフ・ブライアン
 ト。ドラゴンズの二軍で寝かされてた男が
 ……あれだけの仕事するンや。俺らも何か
 が出来る。そんな気ィ、さしてくれた」
北村「ああ」
小林「ラルフと同じ会社には入られへんかっ
 たけど俺、結構、ええ鉄道マンやったで」
北村「ああ。それは俺が一番知ってる。俺に
 は分かる。俺には分かる」
小林「サラリーマン、馬鹿にしたような加代
 と由美が嫌やったけどな」
北村「俺はそうでもなかった。けど、大阪帰
 っていきなり大震災に遭うて、ホンマに思
 うたんや。悔いない生き方せなアカンて」
小林「そうや! 俺もあン時そう思ったんや
 ! 嬉しかったで!起業家めざそうて、誘
 うてくれた時は!2人とも同じ事考えてた
 んや、て……それだけに嬉しかったで!」
北村「俺、小林はやるて、知ってたから。俺
 は分かってたから」
小林「後で大コケしたけどな……仕事で」
北村「いや、女でや」
小林・北村「(笑い)」
小林「(笑いながら)誰がアゲマンやて?」
北村「(笑いながら)お前が言うたんや」
小林「(笑いながら)移り気な人生……なる
 とこやったな」
北村「涼子……」
小林「やめとけ。あらもう別人や。天野やで」
北村「ラルフに笑われるで」
小林「恐ァて……失敗、女のせいにして」
北村「俺も。恐ァて、女に逃げて」
   間。
小林「もういっぺん、一からやり直すで」
北村「ああ」
小林「伯父さん、悪いけど断ってくれ」
北村「ああ」
小林「本社は大阪のまま。大阪ごと立て直す」
北村「ああ」
小林「今度は人、育てなアカンな。組織いう
 もンは、やっぱり人材が全てやで」
北村「指導者としても、ラルフの如く、な」
小林「伯父さん、今すぐ電話せえ」
   北村、ポケットに手を入れる。
北村「あ……しもた。涼子のスマホ、返すン
 忘れてた」
小林「涼子の? それ」
北村「(頷いて)忘れよって……それで取り
 に来よってん」
小林「……かけて来よるやろ」
北村「電源入れといたろ(と、電源オン)」
   涼子のスマホで通知音がする。
北村「お? 留守電、ぎょうさんある」
小林「留守電? (ニヤリとして)聞いたれ
 聞いたれ」
北村「ええか? (ニヤリとして)よし、聞
 いたろ。(涼子のスマホを操作して)謎の
 多い、女やったけど、このスマホ、ぎょう
 さん秘密知ってるやろな」
留守電(男の声)「涼子。新大阪まで車で行
 ったるわ。名古屋辺りから電話くれ」
北村「ああ?」
留守電(男の声)「俺や。ポールの切符とれ
 たで! これで約束通り揃いのセーラー服
 で……ウォーッ! 涼子ォー!」
小林「おい……」
留守電(男の声)「涼子。遂に開発したで。
 スペシャル・ローリング・ワンダー・ヘヴ
 ン! 請うご期待!」
小林「あーあ。天野も可愛そうに」
北村「ヘヴンには勝たれへんやろ。ヘヴンに
 は」
小林「(笑い)」
北村「もう一杯飲めや」
   北村、水割りを作ってやる。
             ― 終わり ―


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