彼×彼女=私2(カレとカノジョはワタシの事情)
内容紹介
『カレとカノジョはワタシの事情』【ノベル形式】
「若返りの遺伝子」を操作した!?
若返り過ぎて前世にまで戻った!?
前世での自分は現世での自分の父親だった!?
佐藤吉美は、究極美術研究所が発見した「若返りの遺伝子」を操作したところ、若返り過ぎて赤ん坊になり、さらに若返って姿を消してしまう。
タトゥーアーティストの佐藤浩美は、一卵性の双子である吉美が自分と同一であった遺伝子を操作したことに驚き、戸惑い、彼女の足取を辿って行く。
超高齢社会に突入したこの国で、かつて、多くの新産業、新業種の半分以上を創出していた大阪のルネサンスを目指した野心家に巻き込まれた、それぞれの事情とは?
野心家の自浄
6-1《二人のリタちゃん》
世界初の有人宇宙飛行に成功したソビエトのガガーリン少佐は、飛行中に「見回してみても神はいない」と言ったらしいが、催眠による前世退行の研究では、神というか、仏というか、そんな風な、「指導霊たち」の存在を認めているという。
死後、天国のような所に訪れた新鮮な魂は、指導霊たちと共同して、前の人生から持ち帰って来た課題をもとに、来世のプランを立てる――この次の人生のプランニングが、魂が天国のような所に還る一番の目的らしい。
指導霊たちはこれまで、多くの魂のアザー・ライフ・プランを手伝って来たやろけど、まさか吉美&浩美が逆流して来るとは思えへんかったやろな。
二人の来世計画ならぬ前世計画なんか立てたやろか? もう面倒くさいから勝手にせぇ言うて、そのまま行かしたやろか? それとも前例のないことしやがって、と怒って、何か仕掛けよったやろか?
ほんま、運命て、イタズラし過ぎや。
そのイタズラの張本人がこいつ――加藤幸一。
佐藤浩美が一卵性双生児の姉である吉美を追って前世に飛び立つのを見送り、現世でひと仕事を終えた加藤幸一が究極美術研究所の研究室から出て来ると、待ち伏せていたフリーライターの野口納が現れた。
「加藤!」
野口がいきなり飛び掛かり、加藤の胸倉を掴むと、警備員が二人を引き離し、野口を羽交い絞めにした。
「放したれ!」
警備員が野口を解放すると、加藤は野口を所長室に呼んだ。
テーブルの上に置いた二つのリタちゃん人形を前に、加藤は浩美の「若返りの遺伝子」を操作したこと、それまでの経過、ひと通りのことを話した。
「オマエは狂っている!」
加藤は二つのリタちゃんの二つの不二美マークを眺めながら穏やかに答えた。
「言っておきますが、彼女が望んだんですよ」
「何だって?」
「元に戻せと言われたんですよ」
「元って――前世に戻すことか?」
「お姉さん一人だけじゃなく、自分も遺伝子を操作して同じに戻してくれって」
「まさか。最初から――同じなんかじゃないんだ」
「DNAは同じですよ」
「お姉さんは不倫なんかしなかったよ。バカな男とね」
――そうか。知らんねんや、こいつ。幸せなやっちゃ。
「――ところで、このことは警察やマスコミには伏せておいて頂きたいのですが」
加藤は傍らからジュラルミンケースを取り出し、テーブルの上に置き、静かに眼で訴えた。
「ふざけるな!」
野口がテーブルを叩くと、二つのリタちゃん人形が揺れた。
「これは証拠品として預かっておく!」
野口はそう言って、二つのリタちゃん人形を鷲掴みにした。
「どうぞお好きに」
「オレの恋人を――姉妹を殺したんだ!」
「だから、殺したんじゃない」
「同じことだ! 消したんだからな!」
「どう、証明しますか?」
「――」
「何も残ってない。死体すら、どこを掘っても出て来ないんですよ」
「――逃げられると思うなよ」
野口がそう言い残し、所長室から出て行くと、その後姿を加藤は静かに見送った。
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