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ワタリウム美術館メンバーシップ・イベント 梅津庸一と展覧会を鑑賞する | 国立西洋美術館「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」(投稿まとめ)

本記事はX(旧:Twitter)への投稿をまとめたものです。


2024/4/27(土)、ワタリウム美術館によるメンバーシップ・イベントとして、国立西洋美術館で開催中の企画展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」にて「梅津庸一と展覧会を鑑賞する」が行われた。 

取材:@Romance_JCT




解説をする梅津庸一氏。会員は熱心にメモをとっていた。

作品・作家の解説に加え、梅津氏による愛憎入り混じるコメントがなされる。雲行きが怪しくなると和多利浩一氏に「次行きましょう」と流される手厳しい指摘もあったが批判ばかりでもない。出品作家から見た他作家の手付きや展示の見せ方についての言及は鑑賞者に新たな視点を与えていた。



杉戸洋《easel》 2024年 作家蔵

杉戸洋の作品ではル・コルビュジエが提唱した寸法体系「モデュロール」を基準に堅牢な素材と耐久性のない素材で二項対立を示しつつ互い違いに・ズレを生じさせながら組まれており、最終章にもあるペインティングを見ると初期から「尺度」にこだわってきたことも分かる。梅津氏「センスはいいのでは」。



左:中林忠良《転位 ’04─地─Ⅰ》2004年、《転位 ’07─地─Ⅱ》2007年 それぞれ作家蔵
右:中林忠良《転位 ‘92─地─Ⅲ(出水)》1992年 作家蔵、ロドルフ・ブレダン《 森のなかの小川》1880年 国立西洋美術館

中林忠良は、日本の銅版画のパイオニアである長谷川潔や駒井哲郎の歴史的血脈を濃厚に受け継ぐ作家だ。梅津氏は中林がまとう、銅版画のように自分自身も老いて腐蝕していくという退廃的な世界観は面白いが「僕からすると中林さんの教育者としての采配によって日本の版画界自体が腐蝕しているのではと」。



セザンヌ作品とそれを見た後に制作された内藤礼の作品が並ぶ。白一色ではなくうっすらと色が重ねられ、特に本作品はこれまでのシリーズ作品よりも構築的な図像が見える。梅津氏は、この繊細さを下支えするのは塗られたオフホワイトの壁だと。目の付け所が鋭い…?



ポール・セザンヌ《ポントワーズの橋と堰》1881年 国立西洋美術館、松浦寿夫《キプロス》2022年 作家蔵

松浦寿夫については、美術史家・批評家としての顔も持ち博識だが絵は無邪気で、ヴュイヤールやボナール、セザンヌの絵画を読み解いて内面化して描かれたそうだが構築性を感じない、やる気はすごい、でも全く話題になっていない、など容赦なく斬っていた…。



布施琳太郎《 骰子美術館計画》 2024年

布施琳太郎の作品は、今までの作品に比べどう見るか悩む部分もまだあるが「本気出してますよね」。「2枚の液晶はエキソニモの《The Kiss》を連想させる」とも。浩一氏は、布施によるキュレーションの活動についても触れ、同世代の人々への理解をもって自分の文脈で繋げていくのが上手いと評していた。



田中功起《いくつかの提案: 美術館のインフラストラクチャー》、《美術館へのプロポーザル1: 作品を展示する位置を車椅子/ 子ども目線にする》 それぞれ 2024年 
鷹野隆大《2015.10.28.#28》「カスババ2」シリーズより 2015年 作家蔵、フィンセント・ファン・ゴッホ 《ばら》1889年  国立西洋美術館 松方コレクション、エドヴァルド・ムンク《立つ男》 国立西洋美術館、鷹野隆大《2019.12.31.bw.Pen.#34》 2019年 作家蔵
ミヤギフトシ《アクタイオン》2024年 作家蔵

美術館自体への提案を並べた田中功起の展示室では、作品に対話や協働を持ち込むスタイルが先鋭化していてもはや作品と呼べるのか?とも思うが、使われているクラフト紙や木材を見るに彼のインスタレーションの文法ではあると述べた。すると、「でもこの無印良品店みたいな…」と展示室の雰囲気を喩え、
「ここが無印じゃん。隣がIKEAじゃん。」と次の鷹野隆大の展示室も覗く。両者には無意識のうちに資本主義的なものを受け入れ過ぎている感受性が見えると指摘。 ミヤギフトシについては、1番無理なくコレクションへの応答がなされていて良い映像作品だと評した。



 弓指寛治《You are Precious to me》 2023–24年 作家蔵
 弓指寛治《You are Precious to me》 2023–24年 作家蔵

「弓指さんすごかったのが設営中にあと10点描いてくるとか言って帰って描いてきたんですよ」と、弓指寛治の作品にかける情熱には梅津氏も感心している様子だった。浩一氏らもみな「傑作だ」と言う。作品点数的にも内容的にも充実していて語ることがもうない、本展の見どころと言っていいという声も。



手前:竹村京《修復されたC.M.の1916年の睡蓮》 作家蔵
奥:クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》 1916年 国立西洋美術館、 松方幸次郎氏御遺族より寄贈

戦時の疎開により破損したモネの絵画を補うように、刺繍した布を下げる竹村京による作品。梅津氏は、絵画における修復の方法論も時代ごとにアップデートされていく中で、壮絶なダメージを低減することなく見せ、表現の上で修復する手法が面白いとコメント。



パープルーム展示風景

あえて新作は作らず普段の活動の様子を見せたという膨大な情報量のパープルームの展示室。床に散りばめられた美術における制度内制度批判テキストは、興味の無い人にはただの柄として見てもらう。 「コレクションもあまり大事に展示してなくて「まぁボナールですか?いいですよ笑」ぐらいの感じで」。



パープルーム展示風景
左: 星川あさこ《存在の枠組み》2020年 作家蔵
右:わきもとさき《生活弾をかかえるおうち》2021年 みそにこみおでん氏蔵

作風に幅のある星川あさこ作品。《存在の枠組み》は西美のコレクションと間違われたというエピソードも。 空間内の壁はコラージュの面と手で塗装した面があり浩一氏に見辛さを指摘され「作品が埋没するようにしたかったが(他の作家達を)道連れにしてしまった」と反省していた。



奥:坂本夏子《Tiles》2006年  個人蔵、梅津庸一《想像力の網》2022年 個人蔵 、梅津庸一《集合と離散》2021年 作家蔵、梅津庸一《内なるスタジオ(青)》2022年 個人蔵
右:辰野登恵子《 WORK 89-P-13》1989年 千葉市美術館、クロード・モネ《睡蓮》1916年 国立西洋美術館、松方コレクション

辰野登恵子、杉戸洋、坂本夏子、梅津庸一が並ぶ最終章。ここは担当学芸員 新藤淳氏が出品作や配置を決めていった空間で曰く抽象表現主義を超える絵画を目指した辰野のように流通しやすいスタイル・画風に留まらず新たな絵画の世界を実験し続ける姿勢が他3作家には継承されているように見えるとのこと。




右:ジャクソン・ポロック《ナンバー8、1951 黒い流れ》1951 国立西洋美術館、山村家より寄贈
左:辰野登恵子《 Work 85-P-5》1985年 国立国際美術館

ちなみに浩一氏が本展覧会で一番印象に残ったと惚れ惚れした表情で話していたのは最終章でのジャクソン・ポロック《ナンバー8、1951 黒い流れ》。辰野もこのシリーズを好んでいたそう。



本展会期も5/12(日)までと残りわずかだ。
同日からはワタリウム美術館にて梅津氏構成の展覧会が予定されている。


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開催概要
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
Does the Future Sleep Here? ―Revisiting the museum’s response to contemporary art after 65 years

主催:国立西洋美術館
会期:2024年3月12日(火)~ 5月12日(日)
会場:国立西洋美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園7-7)
開館時間:9:30 ~ 17:30 金曜・土曜日9:30 ~ 20:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(火) (ただし、3月25日(月)、4月29日(月・祝)、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館)※最新情報は国立西洋美術館公式サイトにて。
ウェブサイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html

本展出品作家 田中功起の作品の一環として託児サービスが実施されます。
事前申込制です。詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://www.nmwa.go.jp/jp/experience-learn/detail/event_63.html


参考
梅津庸一|エキシビション メーカー
ワタリウム美術館
2024年5月12日(日)〜 8月4日(日)
http://www.watarium.co.jp/jp/exhibition/202405/



本記事は以下の投稿を転用しています
https://x.com/review_report_/status/1785169681109950927




筆者プロフィール
Romance_JCT
普段は会社員です。
https://x.com/romance_jct


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