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「ART FAIR TOKYO(アートフェア東京)」記者会見/出展ギャラリー・主要アーティスト・特別企画発表

2024年3月8日(金)から3月10日(日)(7日は招待制のプライベート・ビュー)まで、今年も『アートフェア東京』(※)が東京国際フォーラムで開催される。同フェアは古美術から陶芸、現代美術まで幅広くコマーシャル・ギャラリーが出展する国内最大級の国際的なアート見本市であり今回は新型コロナウイルスの影響による行動制限等を実施せずに行われる回となり、一層の活況が見込まれるという。

フェアへ先立ち、昨日2月27日(火)に、主催者によるゲストを招いた記者発表会が行われた。

(※)マネージング・ディレクターの北島によれば、年度をタイトルに加えるより、外国のフェアに倣って回数の表示に変えることを検討しているという。今回もメインヴィジュアルには2024の表記が無い。




筆者は『レビューとレポート』から派遣され、記者会見に参加した。会見は4つのパートに分かれており、ゲストのスケジュール上の都合ということで、まずアートフェア東京のマネージング・ディレクターである北島輝一と、2011年からアートフェア東京に来場しているコレクターで弁護士としても活動する小松隼也がアートフェアとコレクターの関係について対談を行い、次にフェア初の試みとなる特別展示『YUGEN』(ゲスト・キュレーター:タラ・ロンディ)について解説し、その後、これ久々のコラボレーションの試みとしてアートフェア東京とTCS(TOKYO CREATIVE SALON)が共同企画する『「土・メッセージMINO」IN東京’24』について、担当キュレーターの丹原健翔がプレゼンテーションした。最後に再び北島が登壇し、来場者数、売り上げなど各種の数字を用いながらフェア全体の実施概要について簡単に説明し、記者会見は終了した。

以下、写真とテキスト、キャプションを用いて、簡潔に当日の様子を報告したい。






対談:アートフェアとコレクター、コレクションの関わり(ゲスト:小松隼也)

小松隼也(左)と北島輝一(右)

先述の通り記者会見は4つのパートに分かれており、最初の登壇者はアートフェア東京のマネージング・ディレクターである北島輝一と、2011年からアートフェア東京に参加するコレクター、小松隼也だった。
弁護士として活動し、メディア露出も多い小松は東京写真学園を卒業しているという経歴もあって写真の購入からコレクション活動を始めたが、現在は縄文土器から現代美術まで幅広くコレクションを展開する異色のコレクターである。

「現代美術だけではなく、古美術、工芸、日本画、近代美術など、これだけ幅広いジャンルを扱っているアートフェアというのは世界にもあまりないので、毎年楽しみにしている」

小松は伽耶時代の陶器から黒田泰蔵の磁器、森山大道の写真まで、自らの立ち位置、コレクション歴をプロジェクションで紹介しながらアートフェア東京の特徴について上記のように語った。海外のフェアと比べても扱うジャンルがとても広く、「つかみどころがないと批判されたりもする」(北島)部分がむしろ魅力であり、今後も現在の様に多様なギャラリーが集まることでコレクターが関心を持つジャンルの幅が広がることを自分は望んでいるし、近年海外で評価が高まっているのに比べて国内のフェアでは手薄な近代美術、陶器、工芸の分野をしっかり掘り起こし、文脈化できれば面白いのではないだろうか、と。その意味で、しっかりとキュレーションした工芸のサテライト企画を実施するのはとても重要な試みだと捉えているという。
今回出展を楽しみにしている具体的なギャラリー名としては、自らの重要なコレクションの一つある黒田泰蔵を出品する『うつわ菜の花』、縄文土器を扱う『去来』について挙げていた。

「海外の人にあまり知られていない日本の社会史とか思想史は戦前の近代の部分かもしれない。そこを文脈化し、対応するアートみたいなものが紐づけられれば、アジアに唯一あった西欧的近代という意味でも西欧の人が見直す可能性は確かにある。今回出展しているギャラリーさんもそういうエネルギーを持っているし、後で紹介があるが、陶芸のサテライト企画も同様の試みという意味合いだ」
「僕がディレクターになってからのアートフェア東京の10年間は、アートはアーティストに紐付くだけではなく、ギャラリーで買うものであり、どのアーティストを買うかより、どこから買うかがコレクターとしては重要だと知ってもらう10年だった。次の10年間は、そこからどういうコレクションをするべきなのか?どうコレクターに育っていってもらうのかが我々のテーマだと思っている」

小松の話を受け、海外マーケットへの新しい文脈の掘り起こしに加え、アートとコレクター、コレクションの関連性を北島が語って、最初のパートは締め括られた。


小松隼也(左)と北島輝一(右)

登壇は対談形式で進められた。


小松隼也。
今後のコレクター活動では、日本で敬遠されがちな彫刻などの立体作品も積極的に購入していきたいと述べていた。


小松隼也(左)と北島輝一(右)

背景のプロジェクションは小松のコレクションを紹介する内容。土器から現代写真まで幅広く購入しているという。




企画展示、The Project『YUGEN』

『The Project』について解説するアートフェア東京マーケティング・ディレクター木下 明


小松と北島からバトンを受ける形で次はアートフェア東京のマーケティング・ディレクター木下 明。今回アートフェア東京が他のアートフェアから差別化し、新たな方向性を打ち出す試みとして初めて実施する企画展示『The Project—YUGEN』について、企画意図、展覧会名の意味するところを、ゲストキュレーターとして選ばれた、ロンドン在住で他にパリとローマを拠点にするインディペンデント・キュレーター、タラ・ロンディの紹介と共に行った。


アートフェア東京マーケティング・ディレクター木下 明

『YUGEN』は地上階のロビーギャラリーを使い、タラ・ロンディとアートフェア東京がセレクトした8人の作家、3つのギャラリーが合同で展示を開催する。
国際的に活動するキュレーターから日本はどう見えるのか?どういう発信が可能なのかという点について、アートフェア東京側とロンディで何度も議論し合ったという
テーマである『YUGEN=幽玄』は、提案したロンディによれば「文字通りには、言葉では語り尽くせないほど宇宙の深遠な意識を示していて、これは日本の美意識に通じるものである」とのことで、ロンディが考える現在の日本が持つ魅力を表していると同時に、「近年、見えるものと見えざるものとの境界線が曖昧になって来ている」という彼女の感覚を表すものでもあるという。この言葉を起点に、展覧会は組み立てられている。

『YUGEN』について、アートフェアに携わる中で、「なぜアートを所有しなければならないのか?」「アートを所有する意味とは?」についてもっと考えを深めなければならない時代になっていることを実感させる言葉だといい、同時に、最近、取引のあるコレクターたちが口にする迷い——「これからどういうものを買っていけばいいのだろう?自分にとってアートとは?」——に対しても、価値観の曖昧さや、見えているものと見えていないものに対して考えさせる問いにもなるのではないかと語っていた。

『YUGEN』は初めてのチャレンジであるため、展示スペースとしては必ずしも大きくないが、アートフェア東京としては今後もテーマ展に力を入れるつもりであり、今回も2019年のターナー賞受賞者TAI SHANIや、日本でも個展が予定されているJosé Parlaなど注目される作家が選ばれている他、枝史織やNEIL HAMAMOTOなど、拠点を日本から海外へ移した、あるいはルーツを日本に持つ作家など、日本と縁のあるセレクトも偶然に起きており、国内のファンはそこにも注目してほしいという。

※全くの余談だが、枝は筆者の美術系高校の後輩であり、当日、事前情報なしで名前を見かけたため、大変驚いた。


『YUGEN』のゲスト・キュレーターであるタラ・ロンディ。まだ30になるかならないかの若いキュレーター。これまではフェミニスト的な価値観を強く打ち出してきた。


『YUGEN』のメインヴィジュアルと8人の参加作家。個別の紹介は時間の関係から省かれた。


『YUGEN』それぞれの作家の作品ヴィジュアルをまとめたイメージもプロジェクションで紹介された。




『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』(ゲスト登壇:丹原健翔)


『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』の解説風景。キュレーターの丹原健翔は終始控えめな姿勢だった。


『YUGEN』の紹介を終えると、三番目に紹介されたのは、先程コレクターの小松が「重要な試み」として評価していた、サテライト会場で行われる工芸作品の企画展示『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』の概要だった。登壇したのは、企画の担当者である丹原健翔。ハーバード大学で美術史を納め、現在は会社経営と同時にソノアイダでプログラム・ディレクターも務める異色のキュレーターだ。
上記企画はアートフェア東京とTCS(TOKYO CREATIVE SALON)とのコラボレーションとして、3/8~3/17日のあいだ東急プラザ表参道原宿 5階で開催されるもので、1986年から3年に1回、岐阜県多治見市・瑞浪市・土岐市・可児市で開かれている世界最大級の陶磁器コンペ『国際陶磁器展美濃』の歴代受賞者22組、40点ほどの作品を集めたグループ展となる(主催は国際陶磁器フェスティバル美濃実行委員会)。


『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』の解説風景。美濃という土地で40年にわたって続く作家のコミュニティへフォーカスした展示だという面が強調された。


企画の名称は1989~1998年の間に4回開催された美濃地方の若手現代陶芸作家による自主企画展示『土・メッセージ IN ○○』から取られ、本企画自体も当時の作家たちのスピリットや作品の系譜を継承する狙いがあるという。
企画における最大の特徴は、過去の受賞者を招聘したグループ展ではあるものの、「いわゆる受賞者展にはしたくない」という主催者側の意図を丹原が汲み、美濃という歴史のある陶の産地で陶芸制作がいかに継承、伝承されてきたかという想いを切り口、コンセプトにしている点だ。

プロジェクションで紹介される通り、美濃焼は現在、国内で53%の流通量を占めるほど大量生産されている焼き物ではあるが、それは織部焼や志野焼も含む、美濃地方で生産された焼き物全てを指す「総称」でしかなく、であるが故に彼の地では伝統的な技法や狭いジャンル、しきたりなどに縛られない実験的な取り組みや技術革新があり、現代陶芸という形で、工芸やアート、デザインの交差点を探す作家の姿も多く観察されるという。展示に集められた各作品も志野焼、黒陶をはじめとするレガシーな技法を現代作品に転じた作家、3Dプリンターなどの新しい技術を用いた作家など、技術的な見どころも多いとのこと。

同時に丹原は、前述した『土・メッセージ IN ○○』を企画し、「徹底した対等性、平等性」を掲げていたかつての若手作家たちのコレクティブ的な活動の先進性、そして今や現地の陶芸界で重鎮となり、当時自分たちが対峙した権威のように若手と対立することもあるという皮肉な状況も歴史として取り上げ、我々が現代においてコミュニティを形成する、人とつながるということを考えるにあたってのヒント、凡例のような形として紹介したいと述べていた。


『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』キュレーターの丹原健翔。


『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』美濃焼の現在についての資料。全国の陶磁器流通の50パーセント超を占め、そこには黄瀬戸、志野、織部、瀬戸黒など日本を代表する焼き物も含まれる。


『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』。タイトルの由来となった脱会派・団体展を謳った展覧会『土・メッセージ IN ○○』(1989~1998年)についての紹介。本展では丹原によるリサーチ時のインタビュー映像の作品も上映される。


『「土・メッセージMINO」IN東京’24—伝承される陶芸の最先端』。改めて開催概要と出展作家22名の紹介(個別の言及はなし)。美濃からこれほどの人数が東京で展示をすることは殆どなく、その点でも貴重な機会となる。




Art Fair Tokyo 18 ~開催18回目の様々な施策~

丹原がコラボレーション企画の説明を終えると、再びマネージング・ディレクターの北島が登壇し、『Art Fair Tokyo 18~開催18回目の様々な施策~』と題してアートフェア東京の概要ーーアートフェアの様々な役割、世界のアートフェアをめぐる状況、2023年度の来場者数や売り上げ、2024年度の出展ギャラリー数やジャンルの傾向、今回のメインヴィジュアルの企図、今後の見通しなどーーを細かくプレゼンテーションして記者会見は終わった。

詳しくは以下に掲載している各プロジェクション画像を参照して欲しいが、やはりアートフェア東京の特徴として挙げられるのは、冒頭の対談でコレクターの小松が述べたように、コンテンポラリー・アート中心である欧米のアートフェアと比べて、土器から古美術、工芸、近現代美術までが一堂に会するその多様性、混沌とした状況にあるだろう。ギャラリーとしてもオルタナティブに近いスペースから老舗の画商までが軒を連ね、その状況はそのまま日本の(欧米と比べて)「特殊な」美術マーケットの状況を映し出す鏡のようなものだとも言える。

北島はアートフェア東京のディレクターをまかされるようになってから、特にここ数年は意図して「展示的ではない」空間の在り方を提示するよう務めてきたという。売買の場であるアートフェアの独自性を求めるなら、それは正しい方向性だと思える。「観る場」ではなく「買う場」としてのアートフェア。残念ながら筆者にコレクター活動を始める資金はないが、少しでもアートの売買に関心があるむきは、足を運んで損はないのではないだろうか。


プロジェクション一枚目。ギャラリー側、コレクター側へのメリットを解説。



プロジェクション二枚目。世界のアートフェアの開催時期を比較。コロナ禍によって以前ほど3月に集中しなくなり、アートフェア東京としては望ましい状況だという。



プロジェクション三枚目。世界のアートフェアの開催時期(アジア)。アートフェア東京のあとにはアートバーゼル香港が控えている。



プロジェクション四枚目。アートフェア東京2023の基礎データ。出展ギャラリーは143と今年より少なかった。



プロジェクション五枚目。アートフェア東京2023の基礎データ。グラフで。



プロジェクション六枚目。アートフェア東京2024のメイン・ヴィジュアルについて。鈴木理策の作品に『AFT』の文字を重ねたデザイン。今年のチャレンジの一つだという。



プロジェクション七枚目。アートフェア東京2024会場配置図。北島曰く、「毎回、国際フォーラムの柱と格闘しています」とのこと。



プロジェクション八枚目。アートフェア東京2024の特徴について。コロナによる行動制限が無くなり、ギャラリー数は150軒を超えている。コラボレーション企画でもフィーチャーされる工芸やオルタナティブ・スペースの展示など、新しい傾向についても解説された。



プロジェクション九枚目。アートフェア東京2024で実施される新しい企画展示についてなど。今年からレセプション・パーティも復活するという。



プロジェクション十枚目。アートフェア東京に出展する各ジャンルの作品ごとの「商品性」を解説。マネージメントサイドからの分析は鑑賞する目線とはまた違って興味深い。



プロジェクション十一枚目。実施日時他。7日のプライべート・ビューから、各ギャラリーで様々なイベントが実施されるという。





ART FAIR TOKYO(アートフェア東京)
会場

東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー

日程
プライベートビュー

3月7日(木)
11:00 ― 19:00

パブリックビュー
3月8日(金) ― 10日(日)
11:00 ― 19:00
※最終日の10日のみ17:00まで


『土・メッセージMINO』IN東京 '24:伝承される陶芸の最先端」
会場

東急プラザ表参道原宿5F
会期
3月8日(金) ― 17日(日)11:00〜20:00
レセプション

3月8日(金)17:00 ― 20:00 (19:00 セレモニー)
東急プラザ表参道原宿 5F 展示会場 ※人数限定

https://artfairtokyo.com/




参考記事




取材・撮影・執筆:東間 嶺 
美術家、非正規労働者、施設管理者。
1982年東京生まれ。多摩美術大学大学院在学中に小説を書き始めたが、2011年の震災を機に、イメージと言葉の融合的表現を思考/志向しはじめ、以降シャシン(Photo)とヒヒョー(Critic)とショーセツ(Novel)のmelting pot的な表現を探求/制作している。2012年4月、WEB批評空間『エン-ソフ/En-Soph』を立ち上げ、以後、編集管理人。2021年3月、町田の外れにアーティスト・ラン・スペース『ナミイタ-Nami Ita』をオープンし、ディレクター/管理人。2021年9月、「引込線│Hikikomisen Platform」立ち上げメンバー。


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