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ビジュツノゲンバ -梅津庸一個展「遅すぎた青春、版画物語(転写、自己模倣、変奏曲)」、版画工房カワラボ!編 その6

梅津庸一さんの版画制作を紹介するビジュツノゲンバ、連載第6回目となりました。今回が取材最終日、搬入まで3日というところでしょうか。

箔を使った表現に先日初めて取り組んでいましたが、この日は箔に油絵具を塗っていました。あえて箔の上に塗ることでメタリックな光沢を作り出しています。
この作品もそうですが、版画に施した複雑なレイヤー構造を完成した作品から読み解くためじっくり観察してもどうやって描いたかなかなか分からず、その構造を知ると驚く人もいるようでした。


展示会場の様子



大判の銅版画、ドットをより深い黒にするため銅板へ何度も腐食作業をしていました。その後、試し刷りのためインクを塗り込み、溶剤で余分なものを落としてプレスをかけ印刷します。
腐食液や溶剤の使用がそうですが、版画は取扱に注意が必要な作業が多いですし、プリントするまでに大変な労力と時間がかかります。それがこの作業を通してしかできない版表現を生み出しているようでした。



細かい作業がひたすら続いていたポスターのレタリングが終わり、それをリトグラフとして刷ります。上がレタリングを直接ほどこしたもので、下がリトグラフ用に製版したもの。


ポスターにはなんと大型の銅版画を使うことになりました。まだ版を調整中の試しに刷ったもので枚数も少なく貴重でしたが、あえてこれを使おうとよくわからない高揚感と緊張感で決断しリトグラフを上に重ねました。大型の銅版画は一枚でも十分作品として出すことができそうですが、あえてそれをポスターに使い、勿体ないような気もしましたが、リトグラフを重ねて刷り上がったものを見た時は、なるほど、これで正解だったのかと思うほど良いものとなっていました。


プリントをする作業の一方で、手彩色を作品に施してしました。こういう作品が展示にないので急遽作ることにしたとのこと。


リトグラフを刷っています。



スマホで撮影した銅版画の写真製版をリトグラフにしていますが、それをさらにいくつか小さな銅版による写真製版がプリントされた上に大胆な手彩色を施したものへプリントします。一気に表情が変わって驚きです。



ここ数日のカワラボ!は梅津作品制作のために全スタッフが関わっている状態で、同時進行でいくつもの作品が作られていました。まさに総力戦体制という状況です。梅津さんが次々と新しい表現にチャレンジして膨大な作品を展示ギリギリまで作っていたせいでもあり、それに答えるだけでの技術を持っている工房での制作ならではともいえます。工房で寝泊まりしながら一人でこつこつ作ってもいますが、それを工房が支えて集団制作をしているようでした。また後から聞くと、材料費以外にも作品売上げから作家取り分を減らし15パーセント分を工房分にできるよう銀座蔦屋書店と交渉し取りつけたようです。
版画工房なので作家がオーダーをかけた複製画プリントを刷り納品することもあるそうですが、そのような関係性ではなく、梅津さんは彼らの仕事をリスペクトし、また、共闘関係を築いたようにもみえました。


今日のカワラボ!ディナー


そういえばこの日に告知が出たのでした。




梅津庸一作品集『ポリネーター』刊行記念展
「遅すぎた青春、版画物語(転写、自己模倣、変奏曲)」

会期 :2023年4月1日(土)〜4月19日(水)※終了⽇は変更になる場合があります。
時間 :11:00~20:00
会場 銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(イベントスペース)
主催 :銀座 蔦屋書店
協力 艸居、Kawara Printmaking Laboratory Inc.、安藤祐美、みそにこみおでん、シエニーチュアン、阿部宏史、美術出版社
お問い合わせ :03-3575-7755(営業時間内) / info.ginza@ccc.co.jp
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/32671-1314100327.html


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