🛤️ 踏切はレトロ - エッセイ

序

散歩途中に踏切を渡った。欄間らんまには木材が使われ、線路の少し先には駅が見える。

自分が子供の頃、踏切は怖かった。轟音と共に駆け抜けていく電車に、生命の危険を感じていた。
凶暴で、非日常的な音だった。

今見る踏切にはワクワクする。
線路や電線がカーブを描き交差する電車の世界に、人が歩ける様にちょっとした舗装がされている。
歩き慣れた人の世界から、人間社会と全く異なる世界に入り込む、非日常の感覚を味わえる。

ぱくたそより

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踏切の非日常を楽しんだ後、この風景をあとどれくらい楽しむ機会があるだろうと考える。

踏切は不経済だ。外から簡単にイタズラされるし、歩道との接束点は騒音を作る。風雨や太陽光で簡単に劣化する。車道や歩道の妨げになるし、人や動植物の接触事故も起こりやすい。

だからか、最近の線路は地下や高架に敷かれるようになっていて、踏切と出会う機会は減ってきているように思う。
遠い未来の都会では、きっと地表に踏切はなくなる。

破

自分の次の世代では、踏切を渡り、線路を横切る、あの独特のワクワク感は存在しないのかもしれない。遮断棒を隔て、轟音と共に通り過ぎる電車の迫力を経験することは、もう無いのかもしれない。

私たちの社会は、よりスマートに、安全に進化している。
踏切はレトロだ。人と電車の距離を、近くせざるを得ないが場合に、存在しているものなのだ。
今後、そういう危険なものと私たちは、より隔てられ、もっと距離が置かれるようになるだろう。

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私たちの社会は、危険なものから距離を置くように進化している。
「命を脅かすものとの距離が広がること」。
これにより、私たちは安全を手にした。
その反対には何を失ったのだろう。

私が小学生の頃は、ハンダゴテや彫刻刀、カッターや虫眼鏡を扱う授業があった気がする。
今、それらを扱う授業はあるのだろうか？
昔にあった、肥後守や凧上げ、ぐるぐる回せる遊具は、自分の時代には危険なものと見做され消えた。

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「命を脅かすものとの距離が広がる」と、命そのものとの距離も広がる。
健康のありがたみは、健康な時には分からない。風邪をひいて、怪我をして、はじめて健康のありがたみを実感する。

命の危険を感じないままに生きれば、命そのものへのリアリティが、薄れていくのかもしれない。
リストカット、過食、DV。そうした病んだ行いは、自分の目には命への冒涜に映る。けれどもそうした行いに踏み出す人は、抱く命の感覚に、自分とギャップがあるのかもしれない。

急

世の中は変化し続ける。
ゆく川の流れは絶えず、進化は残酷に無計画に進む。
私が踏切へ愛着を感じるとしても、その思いとは無関係に、世の風景は変わっていく。

世界の変化は変えられないが、自分の変化は制御しうる。
世界が「より安全に、よりクリーンに」進むとしても、私もそれを目指す必要性はない。

踏切はレトロ。
人とテクノロジーの際きわを作るそれは、異質との距離の近さを感じさせ、正しい距離の取り方を学ぶ機会を作る。

距離を取れば安全だが、距離を取ったままではその輪郭を眺めることしかできない。
時には実際に手に取り、触り、匂いをかいで、動きを感じる。
そうすることで、生命のリアリティは濃くなっていく。

そうした経験こそが、生の豊かさにあると思う。

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最後までご覧いただきありがとうございました！
普段と違う場所を散歩をしていると、新しい刺激を受け、いろいろ考えが巡ります。
そういう体験は大切です。

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