卵

「卵」



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「不正」


全国小学生冬季作文コンクール

「審査員賞」受賞作品

東京都 板橋区立 さざ波ホエール小学校

5年2組

きりはら そのこさん

題名「スキー教室の思い出:殻破り編」


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控えめに言っても、今年の冬休みは最高でした。
今まで生きてきた10年とは比にならないくらい、最高でした。


人生10年間と今年の冬休みを天秤にかけると
ちょうど同じ重さになります。
私の中では、この表現がすごくしっくりきています。


その天秤の色は、「赤」です。


これを読んでいるみなさんが想像したのは、
おそらくステンレス製の天秤だと思います。
ステンレスは「ネズミ」色。


しかし、私の天秤は「赤」です。
その理由は血や心臓をモチーフにしているからです。
自分の中の「経験」を、自分の「心」が測るので、「赤」です。


私は最近、江戸川乱歩にはまっているため、少し文章が変です。


でも、これはこれでいいと思っています。


お父さんも
「これはこれでいいな」


と言ってくれました。なので、今の所直す気はありません。


はい。


冬休みの一番の思い出は、家族でスキーに行ったことです。
この何気無い家族行事から伝説は始まりました。


元々は乗り気じゃなかったんです。
私はスポーツが得意じゃないので。
室内で読書しながら甘味を食べてる方がよほどマシ。


ごねる私を見かねて、お父さんがこう言ったんです。

「冬、馬動かずんば春先の幸無し。また、馬動けば国が建ちける」


父の目をまっすぐに見て、私はこう言いました。


「は?」


恐らく、故事成語風に言えば納得すると思ったんでしょう。
大人のずるさに肉薄しました。


しかし、まあ家長の言うことなので。
スキーの予定はくつがえりませんでした。


そして迎えた当日


私は人生観が変わるような出来事に見舞われるわけです。


スキー場に着いた私たち家族は、まず食事をとることにしました。
食べたのはすき焼き定食。


その時です。
お父さんが肉に絡める用の卵を溶き始めたその瞬間、
体中に電撃が走りました。


「これや…!」
私の中の関西人探偵がささやく。


私はまだ割られていない卵を手に取り、ゲレンデに飛び出し、
その足でリフトに乗り込みました。


スキー場のてっぺんに着いた私は、
手に持っていた卵をゆっくりと、そして丁寧に割りました。


そして、その卵を雪の上に垂らしました。


おめでとうございます。
ここに、人類史上最大の大きさの卵が、完成したのです。


卵の黄身がそこにあることで、ゲレンデの雪は全て白身と化す。
4キロ四方の巨大卵。
全ては捉えようなわけです。


そして、私が作った巨大卵の上で、たくさんの大人が滑っている。
それはとても滑稽に思えました。
おかしくて、おかしくて。


私は日暮れまで、山頂からの景色を楽しみました。


これが私の冬の思い出です。


この作文で私が言いたいこと。
それは、


「どんなに退屈に思えることでも、自分次第でひっくり返る」
と言うことです。


将来は、エベレストを大きな卵に見立てたい。
そう思っています。


以上、きりはら そのこでした。
また来週。


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審査員講評:


これは非常にグレーな作品で、多くの審査員が
「これは大人の文章だ、こんなもの書けっこない、言い回しがカビ臭い」
など、ちょっとした議論をかもしました。


もっとも議論が白熱したのは
文章中に「甘味」という言葉を使った点ですね。
確かに、小学生が使う言葉ではありません。


しかし、最後には
「発想自体はいい、子供が書いたとするなら素晴らしい作品だ、小学校教育も捨てたものではない」
などの意見でまとまりました。


最も好評だったのは
「また来週」
という結びの文言ですね。


全員で、来週はねえよ、って突っ込みましたから。
はい。


でもね、我々大人が子供を信じてあげなくちゃダメですよね。
これからの未来を作るのは子供たちなのだから。
そういう意味でも味のある作品だったと思います。


審査委員長:
桐原 てるゆき 



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