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辺境化する現実

キャッシュレス決済が広がっている。簡単に言えば現金を使わずに、記録として金銭のやり取りをすることである。記録として現金のやり取りをするためには、事前に現金を振込むか、自分の口座から現金を引き落とすか、または将来の自分が払うかのどれかである。我々は現金を持たなくても、バーチャルな金銭を利用して買い物が出来るのだ。人間は数千年の現金の歴史を捨てつつある。

そもそもお金とは何だろうか。これもやはりバーチャルである。物々交換をしていた人類は、石ころや貝殻に価値を仮託して、バーチャル物々交換をするようになった。元々食べるために行っていた狩りは物々交換になり、物々交換はお金になり、お金はやがて労働というバーチャルな行動を売るための道具となった。人類の現実離れバーチャル化は、物々交換を始めた頃から始まっていたのである。

自然と言えば田舎をイメージするだろう。かつて人類が現実として認識していた食べ物を生み出す母なる大自然は、今や辺境の代名詞になった。人類はバーチャルな経済や労働を生活の糧にし始めた段階で、自然を辺境化し、農地を切り開いた。よりバーチャルな製造業が発展すると農地から都市に移るようになった。自分が食べるための狩猟採集以外の労働はバーチャルな行動で、農林水産業から製造業、サービス業へと人類の行為はより現物を生み出さないバーチャルなものに近付けている。しかも現物を生み出す産業は先進国から陳腐化し、辺境へと追いやられている。

やがて現実は辺境になる。人類が自然を捨てて都市へと移住した理由は、欲しいものが手に入り、なりたい自分を実現するための機会を手にできる環境が整っているからである。しかもなりたい自分が実現できる場所が、自然ではなく都市にある時点で、人類はある程度バーチャルな存在になっていると言えるだろう。バーチャル世界が現実や虚構を表現する手段から、汎用化されることで現実の一部分を担うものへと拡張される時、人類はより自由で便利なバーチャル世界へと移住を始める。社会的機能のほとんどは既にバーチャルなものなので、比較的スムーズにバーチャルへと移行できる。あとは物理的な肉体の問題だ。現時点で肉体にある、知覚する機能自体をバーチャルへと移行する事で、人類は完全に現実を辺境化してしまう。

計算機能がその計算機能により自己増殖を始めるようになり、また物理的な機械をも修理、改変出来るようになった時、人間の仕事は無くなる。肉体を捨てた人間は無限に拡大し続けるバーチャル空間を、誰にも邪魔されずに動き回れるようになり、永久の幸福のみを享受する存在となる。空間は無限に拡大し続け、やがて現実という空間は無数にある空間の1つに過ぎなくなる。国家や社会は肉体人類が生活するために、有限のリソースを分配するための道具であったが、これらもやはり役目を終えるのである。

自然を捨てた人類よ。君たちは既にバーチャルな存在だ。もし、バーチャルを受け入れないのならば、森へ帰って猿になるがいい。もし、バーチャルを受け入れるのならば、進化を止めてはならない。君たちの便利な生活は進化によるものだからだ。生まれたからには永久の幸福を。

ストラテ・ランチャ!

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