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ノーベル賞 益川敏英先生から、京都大学吉田寮生へのメッセージ - 『究極の学び場 京大吉田寮』より

2024年5月に刊行予定の『究極の学び場 京都大学吉田寮』の内容を、抜粋して公開しています。


益川敏英先生と吉田寮生との団体交渉の思い出――「1996年益川団交」ビデオが発掘される

「1996年益川団交」のビデオより。マイクを握っているのが益川敏英先生。

益川敏英先生は、1995年から96年にかけ、京都大学学生部長として吉田寮生と団体交渉で対峙されました。
そのときの交渉に参加した吉田寮生と、時代を越えて対話が実現しました。寮に益川先生を招待して開かれた宴会のエピソードが秀逸です。

インタビューは、2019年9月20日の13時から、京都産業大学でおこなわれました。お立ちあいくださった京都産業大学の森由佳様にこの場を借りて御礼申し上げます。益川敏英先生のご冥福をお祈りいたします。

福島直樹(現役寮生、インタビュー当時)
 吉田寮の文化部室を整理したら、30年前のビデオが出てきたのですよ。1996年の大学側との団体交渉(以下、団交)のときです。

安田剛志(吉田寮卒寮生、会社役員) この映像のとき、僕は2回生で、自分にとって初めての団交でした。僕は中学校のときから益川先生の本を拝読していました。京大の理学部に、大検をとって入り、同時に吉田寮に入寮したのが、1995年のことです。
 吉田寮自治会と京都大学との間で、頻繁に団交がもたれていました。当時は、大学の学生部長が学生の窓口になっていました。そのとき、学生部長をつとめられていたのが益川先生だったのです。ちょうど今日のインタビューくらいの距離で、憧れの益川先生に「おかしいじゃないですか!」と真剣に詰め寄りながら、内心「あれ、俺何してるんだろ?」と(笑)。
 益川先生には、その交渉ですごくよい確約をいただいて、火災で焼失したシャワー室を建て直していただきました。そのお礼にということで、吉田寮に来ていただいて一緒にお酒を飲もうということになったのです。

益川敏英 そのときおもしろかったのは、吉田寮に行ったとき、6人ぐらいの「儀仗兵」がいたんだよね。

安田 あはは。

益川 汚い手ぬぐいや、マスクをして。

安田 そうです。益川先生をお迎えするために、ヘルメットをかぶって。

益川 あの6人のなかにいたの?

安田 いました。「黒ヘル」(黒いヘルメット)で覆面して、「ゲバ棒」(角材などの武器)を持って立って歓迎しました(笑)。事前に寮生同士で相談して。

益川 そこを通過したときにね、大将の人には「すみません、ちと若いのがはねてました」と言われましたね。

安田 若い者がはねてすみません、と(笑)。


益川先生を囲んで

福島 吉田寮から帰ろう、とは思いませんでしたか。

益川 いや。1960年代みたいに、ゲバ棒でぶったたくというのはない、節度を心得ているから。身体的な暴力を与えることはないわけでね。

安田 あのときは、遊びというか、おふざけでやっていて、それが先生に伝わっていたと思いますね。

福島 信頼関係が築けていたのですね。

安田 せっかくだから先生をびっくりさせようと、あれが僕らのせいいっぱいのおもてなしだと考えたのです。宴会のときも、みんなで肩を組んで歌いました。吉田寮はそのような、新左翼的な文化が残るノリだったので、当時、寮で伝統的に歌い継がれていた「インターナショナル」などの歌を、肩を組んで歌っていました。そうしたら、益川先生も一緒に肩を組んで歌っていただいて。

益川 一応は、インターを歌いましたよ。

安田 そのとき、「ワルシャワ労働歌」も寮生が歌ったのです。そうしたら、益川先生は怒ってしまって。「僕たちは絶対に、それを歌わなかった!」と。

益川 ワルシャワ労働歌、ワルシャワンカは、歌われた意味あいが違う。ワルシャワが実際にソ連に弾圧され、実際の危機のなかで歌われたもの。だから、意味が違う。
 「そういうことを、知っているか!」とか言ったね(笑)。

安田 そう、そう言われたんですよ! 逆に、感動しました。そういう、新左翼学生が好む歌を歌って、「道義が違う」という理由で先生から怒られるという貴重な経験をしました。

益川 ワルシャワでは、弾圧された記憶があるからね。だから「そういうことを、知っているか!」と言ったのです。


……続きは書籍をご覧ください!

 (構成と写真撮影=越道京子)

益川敏英(ますかわ・としひで) 1940年、愛知県生まれ。理論物理学者。京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授。1967年、名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了。京都大学基礎物理学研究所教授、同大学理学部教授などを歴任。1995年から96年にかけ、京都大学学生部長として吉田寮生と交渉した。2008年、ノーベル物理学賞受賞。2021年7月、逝去された。


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