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僕の好きなアジア映画34:先に愛した人

『先に愛した人』
2018年/台湾/原題:Dear Ex/谁先爱上他的/100分
監督:シュー・ユーティン(徐誉庭)、シュー・チーイエン(徐麒雯)
出演:ロイ・チウ(邱澤)、シエ・インシュエン(謝盈萱)、スパーク・チェン(陳如山)、ジョセフ・ホアン(黄聖球)

以前にも書いたけれど、僕はクィア映画があまり得意ではありません。でもふと気づいてみると、面白いと感じた映画の中にもたくさんのクィア映画が含まれているではありませんか。正直に言えば生理的にキツいものもあるのですが、ドラマとして通常のヘテロな恋愛物語に比べ、一般的な人間にはゲイは非日常であり、それゆえ題材的な面白さや意外性はあるのだと思います。こういう書き方自体すでに良くないのでしょうけれど。

父と母と息子、という構成の家族。父が病死します。生命保険がおりるのですが、その受取人は家族ではなく、父のゲイの愛人になっていることが判明します。この映画のストーリーの流れは、これを端緒に動き出します。何がどう動くのかは、ネタバレになってしまうので詳しくは書きません。

しかし妻とゲイの男、ゲイの男と息子、母と息子の奇妙な関係が築かれていきます。小うるさい母との生活から逃げ、息子は愛人の元で暮らすことを選択します。いい加減な生活を送っていると思われたゲイの男は、演劇に真摯に取り組んでおり、父への深い愛情を持っていたことが明らかになっていきます。死んだ父が何故保険金をゲイの愛人名義にしたのかもわかっていきます。タイトル「先に愛した人」の意味もわかってきます。

物語の核は重たい話でありながら、特筆するべきはこの映画の表現方法ではないでしょうか。シリアスな内容を、殊更に重く表現せず、軽妙に時にコミカルに描いています。さらに惹かれるのはアニメーションも使ったスーパー・ポップな映像表現や、カラフルな色彩感覚、雑然とした中にキッチュでポップな美術、それらがこの映画をとても魅力的で個性的な作品にしているように思います。

どこの国においても性的マイノリティーの問題は、多くの無理解に晒され、切実であるが故に思わぬドラマを生み出します。本作ではそれのみならず、そこに生まれる家族のシリアスな問題にも切り込んだ、しかしポップで純粋なヒューマン・ドラマです。こういったポップな表現の映画が、台湾の映画の新しい魅力の一つになっているように思います。キャラのたった役どころを演じる役者たちの発するピュアなエネルギーに、も台湾映画らしい熱を感じます。

第20回台北映画祭作品賞、第55回金馬奨主演女優賞。
Netflixで配信中。


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