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僕の好きなアジア映画95: 無聲

『無聲/The Silent Forest』
2020年/台湾/原題:無聲/The Silent Forest/104分
監督:コー・チェンニエン (柯貞年)
出演:リウ・ツーチュアン(劉子銓)、チェン・イェンフェイ(陳姸霏、キム・ヒョンビン(金玄彬)、リウ・グァンティン(劉冠廷)、ヤン・グイメイ(楊貴媚)、タイ・ポー(太保)

聾唖学校を舞台にした暴力を描いた映画と聞いて真っ先に思い出したのは、2014年のウクライナ映画『ザ・トライブ』だった。この映画ではいわゆる障害者と言われる人々にも、一般社会と同様の暴力やいじめがあり、犯罪行為があり、僕がうっかり持っていた障害者に対する根拠のない思い込み(彼らは我々と違って善良な人々であるという)を根底から覆されたのだった。


一方この『無聲 The Silent Forest』は、台湾で実際に起こった衝撃的な事件に基づいているという。仲の良い学生たちで構成されているかのように見えたこの聾唖学校で、衝撃的な性暴力が行われていた。しかしこの女子生徒は、被害を受けていることを、ただそのコミュニティーから疎外されることを恐れて、訴えようとしないのだ。彼女は身体的に聾唖であることのみならず、被害を訴えないという意味でも二重の意味で「声」を出さないのだ。主人公と教師の説得によって、性被害を訴えることになっても彼女はそれが現実的には意味のないことであると、諦念している。その悲痛な叫びは、自らとその組織の保身に走る、健常な大人であるはずの学校の幹部には「聞こえない」のと同じだ、という皮肉に帰結するのである。

性暴力の首謀者たる全く罪の意識のない学生は、幼い頃から同性の教師による性的被害にあっていた。だから加害者たるその学生は被害者でもあり、彼が犯行に至った経緯は仕方ない、などという免罪符を与えるつもりはないのだと思う。罪は罪として断罪されるべきで、徒にその動機や背景によって擁護されるべきではない。それ故ラストのシーンが物語るように、暴力は次の暴力へと終わりない連鎖を引き起こすという悲劇を暗示しているのだ。

聾唖学校における衝撃的な事件を描いた本作に僕は複雑な感触を覚える。彼らももちろん健常者のように犯罪行為を犯すことがあるのであり、逆に彼らが特別に善良であるという思い込みこそが、僕の中にある一種の差別的発想なのかもしれない。

第57回金馬奨最優秀新人俳優賞、最優秀音響賞、台北映画祭最優秀新人俳優賞、第15回アジア・フィルム・アワードで最優秀助演男優賞


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