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僕の好きなアジア映画30:親愛なる君へ

『親愛なる君へ』
2020年/台湾/親愛的房客/106分
監督:チェン・ヨウチェ(鄭有傑)
出演:モー・ズーイー(莫子儀)、ヤオ・チュエンヤオ(姚淳耀)、チェン・シューファン(陳淑芳)、バイ・ルンイン(白潤音)、ジェイ・シー(是元介)


これは血の繋がりを超えた愛情に関する物語である。そして主人公が同性愛者であるが故にこのドラマが展開するのだから、この映画では同性愛を描くことが必要であることは重々承知している。でも以前にも書いてことがあるけれど、僕は個人的にはクィア映画が得意ではない。

間借り人でありながら亡き同性愛のパートナーの母と息子を、純粋な愛情で世話をする男。しかし世間はそれを純粋な愛情とは受け止めてはくれない。血縁のない子供を育てることに親戚も自治体も、金目当てとの疑念を抱く。それに対して主人公は言う。「もし僕が女性で、夫が亡くなってからも家族の世話を続けていたとして、そのような質問をされるのでしょうか?」と。このドラマの内容を凝縮した台詞だ。

健康を害していたパートナーの母は、血液透析の苦痛と、下肢の潰瘍による痛みに苛まれている。そのため主人公は母のために麻薬の密売人からフェンタニルを入手する。しかし不幸にもそれを過量に内服してしまったために母は死亡してしまう。それも相続を狙った殺人との疑惑に晒されてしまうのだ。

彼の亡きパートナーとその家族への純粋な愛情は、結局彼らには届いたようだ。静謐で繊細な映画だけど、主人公の直向きさは揺るがない。

好きな映画だからこそ敢えて率直に言わせて貰えば、この映画に僕は違和感もある。それは男性同士の性行為のシーンだ。こういうのは匂わすだけでは駄目なのだろうか。物語的に露わな描写は、映画の美しさを損なっているように僕には感じられた。これが男女間の性行為であれば、映画の中での違和感は、たとえあったとしてもここまで居心地の悪さを覚えないだろう。僕が同性愛に対しての理解がないのだ、との誹りは甘んじて受ける。人間としての同性愛者の生理と苦悩を真っ直ぐに表現したものだということは頭では理解でる。しかしこの美しい映画の調性から外れたものに僕には感じられた。

それを承知の上でなお僕はこの映画が好きだ。同性愛者に対する社会の偏見を描いたこの映画の素晴らしさは、難しい役どころを演じたモー・ズーイーのデリケートな演技に負うところが大きいと思う。だからこそ彼は本作で多くの賞を受けているようだ。

第57 回⾦⾺奨最優秀主演男優賞 / 最優秀助演⼥優賞 、第22 回台北映画奨最優秀主演男優賞 、第2 回台湾映画評論家協会奨最優秀男優賞


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