僕の好きなアジア映画74: タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜
『タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜』
2017年/韓国/原題:택시운전사/137分
監督:チャン・フン(장훈)
出演:ソン・ガンホ(송강호)、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン(유해진)、リュ・ジュンヨル(류준열)、チェ・グィファ(최귀화)、ホ・ジョンド(허정도)、コ・チャンソク(고창석)、チョン・ジニョン(정진영)、イ・ジョンウン(이정은)
韓国の現代史において最も重要な事件の一つがこの映画がモチーフとしている「光州事件」です。1980年5月18日から27日にかけて、全羅南道の道庁所在地だった光州市を中心に起きた、当時の軍事政権に対する市民による民主化運動でしたが、軍事クーデターにより軍を掌握していた全斗煥率いる自国の軍により弾圧され、多くの国民が虐殺ともいうべき弾圧の犠牲となりました。
当時国内では「暴動」とのみ報道され、詳細が正しく報道されなかったため、事件の真実を全世界に知らしめるために、ドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターは、タクシーを使って光州に入り事件を撮影・報道しました。この映画はその記者と、それに協力したタクシー運転手(キム・サボク氏)との事実に基づいて作られています。
この映画でそのタクシー運転手を演じているのは韓国を代表する名優ソン・ガンホ。いつもながらシリアスな演技の中にもふとユーモアが滲み出てくるまさに代わりがいない俳優だと思います。
その他にもユ・ヘジン、ホ・ジョンド、コ・チャンソク、チョン・ジニョン、イ・ジョンウンなど韓国が誇る名バイプレーヤーが脇を固めています。物語は要約すれば前述した事実の通りなのですが、映画の展開は極めてスリリングであり、最後にはタクシー運転手と軍の車とのカーチェイスまで。深刻な事件を扱いながらも、劇的なプロットと俳優陣の熱演によって、実に観て「面白い」映画として作り上げています。
この映画、そして『1987、ある闘いの真実』など、韓国では自国に民主主義を確立するために民衆が蜂起した、過去の大きな転換点を映画として振り返り、歴史を直視するという、という日本ではおよそあり得ない映画が成立します。光州事件を含め韓国の民主化は市民が軍事独裁政権と対峙し、多くの血を流して獲得したものであり、日本のように上位下達で「与えられた」ものではありません。だから韓国の民主主義は強いのです。韓国民は自身の行動によって民主主義を維持する力を持っています。ろくに選挙権すら行使しないどこかの国とは圧倒的に基盤が違うのだと痛感せざるを得ません。みんな今度の選挙には行こうね。
第54回大鐘賞最優秀作品賞、第38回青龍映画賞
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