見出し画像

僕の好きなアジア映画 01:逃げた女

『逃げた女』
2019年/韓国/原題:도망친 여자
監督:ホン・サンス(홍상수)
出演:キム・ミニ(김민희)、ソ・ヨンファ(서영화)、ソン・ソンミ(송선미)、キム・セビョク(김새벽)、クォン・ヘヒョ(권해효)


昨日オンライン試写会に当選して鑑賞。

タイトルの示す『逃げた女』とは何か。誰が何から「逃げた」のか。

それは主人公(キム・ミニ)が「5年間、1日も離れなかった」夫の束縛から「逃げた」のか(夫を愛しているかの質問に彼女は明確に答えない)、現在は旧友のパートナーである過去の男から昔「逃げた」のか、あるいは同性愛の関係を疑わせる旧友から「逃げた」のか。ソウルの喧騒から郊外へと転出した先輩たちもある意味「逃げた』存在であろうし、それら旧知の人たちと連絡をとっていなかった彼女はそこからも「逃げた』存在だった。誰が何から「逃げた」のか、それは漠然と仄めかされるのみで、観るものの解釈は様々であろう。先輩の女性たちや、旧友とのさりげない女性同士の飾らない会話の中で、そしてそんな会話への男性達による不愉快な介入の中で彼女は変化していく。なんら疑問のない生活から、夫の不在によって自分が逃げていたものに気がついたのかもしれない。ホン・サンスらしく、大きな「事件」は存在しないし何も起こらないのだが、会話のみで観るものを想像へとかきたてる。

画像2


キム・ミニのヘアースタイルが、ふんわりとしたフェミニンなロングヘアーからショートカットのソバージュに変わっている。男性が好むであろう魅力的な、女性らしい彼女のヘアースタイルを、敢えておばさん的なヘアースタイルに変えている。それはこの映画が、男性目線からではなく、女性の視点からの映画なのだという意図を感じさせる。夫と「5年間、1日も離れなかった」生活から、彼女が自分自身を取り戻す旅であり、また「逃げた」過去への決別という意味もあるのではないか。

画像3


唐突なズームアップや長回しなど、基本的な手法はホン・サンスの映画そのものなのだが、男性のある意味無思慮で本能的でしかないな恋愛劇を描いていた「キム・ミニ以前」のホン・サンスとは、その視点が明らかに異なっているように思う。

第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞

画像1


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?