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僕の好きなアジア映画60: おひとりさま族

『おひとりさま族』
2021年/韓国/原題:혼자 사는 사람들/90分
監督:ホン・ソンウン(홍성은)
出演:コン・スンヨン(공승연)、チョン・ダウン(정다은)、ソ・ヒョヌ(서현우)、キム・ヘナ(김혜나)


この作品を観るために再びJAIHOに加入しました。とても地味な映画だけど、僕の好きな種類の映画です。

カード会社のコールセンターに勤務する主人公。仕事はそつなくマニュアル通りこなし、顧客の理不尽な求めにも苦も無く対応する。食事も一人、通勤も一人、もちろん独り住まいである。バスでの通勤の時も、会社での空き時間も常にスマートホンから目を離さず、常にイヤーホーンも装着している。自身の周囲に実在する世界とはほとんど関わりを持たず、まるでスマートホンの中の世界が彼女と繋がりがある唯一の拠り所のようだ。

都会に働くものとして、孤独であることなど全く歯牙にも掛けない、というクールな様子で生きている。母は亡くなり、母を捨てて家を出たのに母が死ぬ少し前に戻ってきたいい加減な父親ともうまくいっていない。

常にスマートフォンばかり見ている。

そんな主人公に転機が訪れる。いくつかの小さな非日常的な出来事を通して彼女は変わっていく。

一つは会社で新人の教育を任されたこと。まともに教育するどころかコミュニケーションすら取ろうとしない彼女だが、顧客の理不尽な振る舞いに正直に反発し、本音で言い返す新人の態度に驚きを覚える。

アパートの隣人は、時々部屋の外でタバコを吸っているのに出くわすだけだったが、その隣人がアパートで孤独死をしたことを知る。主人公は異臭によってそれを知るのであった。さらにその隣人の部屋に新しく入居することになった男が、知り合いでもないのに亡くなった男の弔いを行なっているのを知る。

人と人とのつながりを拒否し孤独の殻の中に存在することを、実は彼女こそが必死に耐えていたことがわかる。彼女は自身とスマートフォンの中に引きこもっていただけだだったのだ。この映画には表層的な、あるいは現象として大きな劇的な展開はない。ほとんど何も起こらないのに等しいのだ。しかし彼女の内的情動は、これらの事象によって劇的に変化していくのだ。

主演は美しいコン・スンヨン。好きな女優さんです。本作では難しい役所を、実にじっくりと的確に表現していると思う。ただ邦題の『おひとりさま族』だが、原題は「一人暮らしの人」という意味。これでは若干ニュアンスが違ってしまう気がするのだが。

第22回全州国際映画祭最優秀俳優賞/配給援助賞、第43回カイロ国際映画祭新人監督賞、第17回大阪アジアン映画祭ではグランプリ、第42回青龍映画賞新人女優賞、第39回トリノ映画祭主演女優賞


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