僕の好きなアジア映画108: 西湖畔(せいこはん)に生きる
『西湖畔(せいこはん)に生きる』
2023年/中国/原題:草木人间(英:Dwelling by the West Lake)
監督:グー・シャオガン(顧暁剛)
出演:ウー・レイ(呉磊)、ジアン・チンチン(蔣勤勤)、チェン・ジェンビン(陳建斌)、ワン・ジアジア(王佳佳)など
大好きな映画『春江水暖~しゅんこうすいだん』の、グー・シャオガン監督の長編2作目であり、「山水図」の二巻目ということで大いに期待して観た。しかし率直に言えば、好きなところもあるが、好きとは手放しに言えない部分もある。その作風には前作とは大きな変化がある。だから前作のグー・シャオガンを期待する者にとって本作はすこしショッキングですらあるだろう。
全くの偶然なのだが、この映画を見る前日まで『約束の地』という韓国ドラマを観ていた。
ドラマの方はカルト宗教、この映画はマルチ商法。どちらも基本的に詐欺である。しかしどちらもその手法は同じで、被害者たちの深い欲望、虐げられたものたちの自己承認欲求を満たすために、あらゆる手段を使って彼らを洗脳していく。考える暇を与えない。彼らの欲望が加害者によって具現化し、満たされたかのように錯覚させていくことによって、被害者たちは疑いを持たずに狂信していく。醜悪な詐欺に巻き込まれていく中で、素朴な美しさを湛える女性主人公は自分自身も醜悪な女へと変貌を遂げていく。信ずるところを否定することは、彼ら自身の存在を否定することになる故に、他者の言葉に耳を貸すことはない。したがって逆に真実を知った時には、その衝撃はあまりにも強く、必然としてPTSDの状態に陥ってしまうのだ。
本作も冒頭のその映像には強烈な魅力がある。緑の山々から自然に溶け込んだ茶畑を俯瞰する圧倒的な映像は前作をも凌ぐ迫力がある。それは神の目である。しかしそこからマルチ商法に落ちる地獄を描写する部分は、冒頭の山水画的な美しい映像とは対照的に、その内容は直視できなぐらい迫真であるが、みるに耐えないとも感じてしまう。マルチ商法に蝕まれる母を演じるジアン・チンチンは、率直に言って僕には演技しすぎに見えた。最終的に母は息子の無私の愛情の元、自然の懐に抱かれて心の傷から回復することができたのだ。
これは対比の映画だと思う。雄大で全てを包み込む自然の美しさや神秘性と、人間の欲望が作り出す醜悪な地獄との。であるからして今回の山水図は天界と人間界とを縦に俯瞰するものと言って良いと思う。ちょっと僕にはその対比が厳しすぎて辛い部分もあった。しかし監督自身の親戚がマルチ商法に落ちたということがベースにあり、こういう過酷さは現実の反映でもあったのだと思う。
アジア・フィルム・アワード最優秀主演女優賞