僕の好きなアジア映画 03:春江水暖
『春江水暖~しゅんこうすいだん』
2019年/中国/原題:春江水暖
監督:グー・シャオガン(顧曉剛)
出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン
中国の若き才能、グー・シャオガン監督の長編デビュー作。監督自身の故郷でもある歴史ある古都、浙江省杭州市富陽を舞台とした物語自体は、極めて古典的、と言ってよいと思う。再開発の波により、時代とともに大きく変わりゆく故郷と、其処に住まう市井の大家族の有り様を描き、四季の移ろいの中で悲しみも喜びも、大河のように静かに悠々と流れて行く。監督の親戚や知人達を役者として配した自然な演出によって、物語自体はもちろん美しく成立しているのだが、しかしそれだけでは決して新しいものとも、驚嘆すべきものとも言えない。
ではいったいこの映画のどこが「驚嘆」の傑作たる所以なのであろうか。
やはりなんといっても驚くべきは、その圧倒的な映像美にあるのではないか。グー・シャオガン監督はこの作品を撮るにあたって、中国山水画の傑作と言われる絵巻、「富春山居図」からインスピレーションを得たという。
映し出される景観は決して華美なものではないが、その言葉通りに一つ一つの風景がまさに山水画のような、それはたとえ枯淡の味わいではあっても、息を飲むような精緻な美しさで映像として焼き付けられている。その映像の見せ方がまず「驚嘆」すべきものだと思う。
そしてその驚くべき映像の中でも白眉と言えるのが、10分に及ぶ横移動の長回しである。カップルが川沿いを散歩している。すると男性の方が川に飛び込んで泳ぎ出す。女性は岸の上を歩きながら同じ方向に向かい、泳いでいる男を見守っている。そして男は川沿いの建物のデッキに到達して其処に上がり、待っていた彼女と合流して船着場に向かい、一緒に船に乗りこむ。ここまでのシークエンスを、ワンシーン、ワンカットの切れ目のない映像で、横に移動しながら捉える切ることで、まさに絵巻物のような表現を作り上げているのだ。
こういう素晴らしい映像の積み重ねの中に、淡々と物語が紡がれていく。それによって、単に古典的とも思えた家族の物語は、滔々と流れる大河のように、映画全体が美しい絵巻物のような動きのある物語としての姿をみせる。この映画が観るものを「驚嘆」させるのは、この画期的な映像美故と言えるのではないだろうか。
この作品は本作が『巻の壱』とのことで、三作までで完結するとのこと。でも率直に言って本作だけで終わった方が潔くていいような....
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