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僕の好きなアジア映画28:ジャッリカットゥ 牛の怒り

『ジャッリカットゥ 牛の怒り』
2019年/インド/原題:Jallikattu/91分
監督:リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ(Lijo Jose Pellissery)
出演:アントニー・バーギーズ(Antonio Varghese)、チェンバン・ビノード・ジョーズ(Chemban Vinod Jose)ほか


こんな映画、観たことがありません。凄まじい、圧倒的な、異常な熱量が渦巻いていて、なんか日本人の僕にとっては根本的に人間としてのヴァイタルのレベルが段違いで、目眩がしそうなほど強烈な作品です。「僕の好きな映画」というよりは、どえらいもの見てしまったなぁ〜っていう感じです。

物語は極めてシンプルです。屠殺しようとしていた獰猛な水牛が逃げ出して、それを村人が捕らえようと、村をあげて追いかけるっていう、本当にただそれだけなんです。

ただそれだけなんですが、その村人達の異常なハイテンションが、まず尋常ではありません。

松明を手にして、夥しい数の村人が森の中を叫び声をあげながら、ノンストップで駆け巡ります(なぜかみんな走り回る、走り続ける)。誰一人テンションの低い人間がいない、まずはその映像が圧巻で、なんか美しいとすら感じるほどです。

村人同士や部族間の揉め事など(これも暴力が凄まじい)も間に挟みつつ、結局牛は捕まるのですが、今度は捕まえた人間に群がる村人たちが重なり合って、人間の山が出来上がっていくという、シュールな突拍子もない狂乱の描写が続きます。怒っているのは牛よりもむしろ人間です。

最後まで異常なテンションとスピード感で駆け抜ける映画のラストは、先史時代の人間が同じく牛を追いかける描写で終わります。牛の怒りがメインの映画ではありません。欲に駆られた人間の行為の野蛮さや愚かさは、獣と何ら変わりがないし、人間は先史時代からな〜〜んにも進歩していないよ、という痛烈なメッセージの映画でした。人間の蛮性を鮮やかに映像に焼き付けた監督の知性に敬意を表します。

ところで日本版ポスターに「1000人の狂人」って書いてますけどね。これ「狂人」じゃなくて、これが「普通の村人達の狂気」という設定だからこそショッキングなのだと思います。好き嫌いはもちろんあると映画だとは思いますが、こういう滅多にお目にかからない、猛烈に熱量の大きな作品は、ぜひ多くの人に体験していただきたい。これ、それぐらいの珍品です。

第93回アカデミー賞国際長編映画賞インド代表作品、第50回インド国際映画祭最優秀監督賞など。


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