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僕の好きなアジア映画33:茲山魚譜 チャサンオボ

『茲山魚譜 チャサンオボ』
2019年/韓国/原題:자산어보/126分
監督:イ・ジュニク(이준익)
出演:ソル・ギョング(설경구)、ピョン・ヨハン(변요한)、イ・ジョンウン(이정은)、ミン・ドヒ(민도희)、チャ・スンベ(차순배)など

名優ソル・ギョングが扮する主人公(丁若銓)は著名な学者であり、先王の時代には重用されたのだが、代が変わり幼い王がその座につくと、実権を握った大妃により先王の側近を排除する目的に、カトリックの信者であることを断じられ、辺境の孤島に流刑となる。主人公は「王は不要である」という理想を持っており、それは時の権力者に受け入れられる思想ではないことは自明であった。

主演にソル・ギョング。初の時代劇。

流された先は四方を海に囲まれた絶海の島であり、漁業で生計を立てている貧しい島である。平和な島ではあっても、この辺境にしてもなお税の徴収が民衆を苦しめている。島の人々は暖かく彼をもてなし、衣食住を与える。彼を世話する女性ともいつしか打ち解け、子供をもうけるまでになる。主人公はこの最果ての島において、都では得ることのできない人間的な幸福を見出して行く。

パラサイト等でお馴染みの名優イ・ジョンウン。しかしいろんなのによく出るなぁ〜。


学問を志す漁師の青年(昌大)と主人公は師弟関係となり、師は学問を、そして弟子は海の生物についての知識を与える。青年は海の生物に対する飛び抜けた知識を持っていた。

漁師の青年にドラマ「ミセン」のピョン・ヨハン

昌大はよく学び、そして学んだが故に科挙を目指し、共に魚符を編纂しようという師の求めに応じず、官職を求めるに至る。しかし民衆のための政という彼の理想は全く現実とは異なるものであり、そこには絶望しかなかった。

さて主人公が編纂に生涯をかけた「茲山魚譜」は、海洋生物学書であるという。しかしながら学術的というよりはむしろ実用書であった。どこまでも官に搾取される漁民たちがより効率良く漁ができるようにという、貧しき者への実用的視点で作られたものようである。が、しかしそこには逆に官に直接抗うことの出来ないという彼の諦念も見え隠れもするのではないだろうか。それでもなお官職への復帰を熱望する様は人の哀れでもある。


監督は『王の男』、『金子文子と朴烈』などドラマチックな時代劇を得意とするイ・ジュニク。本作でも水墨画のように美しいモノクロームの映像で、事実に基づいた市井の人々の豊かなヒューマン・ドラマを創り上げた。これは傑作だと思います。


百想芸術大賞2021、映画部門大賞


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