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僕の好きなアジア映画 06:慶州 ヒョンとユニ

『慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ』
2014年/韓国/原題:경주
監督:チャン・リュル(장률)
出演:パク・ヘイル、シン・ミナ、キム・テフン、シン・ソユル


浮遊感といえば良いでしょうか、独特の空気感のある映画です。舞台は韓国の歴史ある街「慶州」。古墳の街としても知られているようで、街の中に家々と墳墓が混在しているのだそうです。つまりは過去と現在、言い換えれば生と死が、曖昧な境界で共存している街といえます。青々とした草に覆われた半球状の古墳が、夜間には照明に照らされて、実に美しく幻想的な風景を作り出しています。

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飄々としてどこか存在が曖昧な主人公の北京在住の教授役に『殺人の追憶』の容疑者役などの名優パク・ヘイルと、

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美しいカフェの店主にコメディエンヌとしても定評のあるシン・ミナ。私はこの映画で彼女を知りましたが以来彼女のファンです。

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昔来たことのある慶州で、自身の過去の失敗を思いがけず知ることになるどこか感情の希薄な教授と、死別した夫(自死)との過去から抜け出すことのできない、どこか吹っ切れない女性店主。そんな二人が彼女のカフェで出会います。壁に春画が飾ってあったという思い出のあるカフェを訪れる教授。美しく趣味の良いカフェの女主人。教授は春画を探しますが、しかしもうそこには春画は存在していません。過去の記憶が曖昧になっていきます。

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この映画、どこか死の影が付きまといます。教授が街で出会った母娘は無理心中してしまったようであり、迷惑な騒音を出していた暴走族の男は事故で死んでしまいます。ふわふわした感覚の中で、過去と現在、死と性の間で揺れる人たち。そんな中で出会った二人もお互いに惹かれ合いながら、結局は過去に捕らわれて結ばれることはありません。これといって大きな展開や事件は起こらないのですが、人の生業を淡々と詩的に描いています。その中で慶州という土地がそれに相応しい舞台装置として機能しているように思います。しっとりとした音楽も映画の雰囲気と一体になっています。

失ったものが漂っているような街。しかし失ったものを否定することも、安易に新しい出発を築こうとすることも、この映画では描かれません。過去を引きずりながら、曖昧で緩やかで愚かしいけれど、しかしそんな人の在り方への肯定感が押し付けがましくない形で映し出されす。こういう空気感の映画は稀有だなと思います。なんかいつの間にか惹かれてしまう、美しい映画でした。

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