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僕の好きなアジア映画 04:チャンシルさんには福が多いね

『チャンシルさんには福が多いね』
2019年/韓国/原題:찬실이는 복도 많지
監督:キム・チョヒ(김초희)
出演:カン・マルグム、ユン・ヨジョン、キム・ヨンミン、ユン・スンア、ペ・ユラム

この映画、タイトルがこれだから、興味が湧かないっていう人が結構いるのでは、という懸念があります。難しいですね、邦題をどう付けるかは。これは映画愛の映画です。苦い思いもあるけれど、希望がこめられたコメディーです。

長い間ホン・サンス監督作品のプロデューサーを勤めてきたという女性監督、キム・チョヒの初の長編映画です。映画のオープニングはホン・サンスの映画のように、キャストやスタッフの名前が淡々とハングルで綴られるタイトルバックで始まります。そしてこの映画の冒頭、映画のクランクアップの打ち上げで男性の映画監督が急死してしまいます。ここまでで、ホン・サンスからの決別、という意味なのでしょうね。その結果職を失ってしまった映画プロデューサー(監督と同様に)が主人公です。

映画にまつわる場面が沢山でてきます。

思いを寄せる男性とお酒を飲む場面では映画監督の話になり、主人公が小津安二郎が好きと言い、それに対して男性は(クリストファー)ノーランが好きと返します。彼女は思わず怒ってしまいます。映画ファンにはとても分かりやすい、ありがちな対比です。

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香港映画が大好きだったという彼女の前に現れる幽霊は、自身のことを故レスリー・チャンだと言い張ります(『春夏秋冬、そして春』、『殺されたミンジュ』、『愛の不時着』の耳野郎などのキム・ヨンミン)。香港映画の大スターのレスリー・チャン。主人公も彼の大ファンで、それゆえ彼の幽霊が登場するのですが、主人公に自身の映画愛を、再び気づかせる重要な役を担っています。ランニングに短パンのレスリー・チャン、その元ネタがウォン・カーウァイの『欲望の翼』でのこちらの場面です。

一方『チャンシルさん』の「レスリー・チャンだと言い張る幽霊」の場面はこちら。

そして彼女が映画を作るきっかけとなった映画がクストリッツァの「ジプシーのとき」であったり、いたるところに映画愛がちりばめられています。

何もかもを失って、何ももっていない自分、そんな絶望的な状況の中で、主人公は映画への愛情に再び気づき、映画を作る意欲を取り戻し、そして自分の周囲にはそんな希望を一緒に叶えてくれる仲間がいることに気づきます。地味だけど映画愛に溢れた素敵な作品でした。

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