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僕の好きなアジア映画49: 山〈モンテ〉

『山 <モンテ>』
2016年/イタリア・フランス・アメリカ/原題:MONTE/107分
監督:アミール・ナデリ
出演:アンドレア・サルトレッティ、クラウディア・ポテンツァ、ザック・ゼングヘリーニ、セバスティアン・エイサス、アンナ・ボナイウート

こんなのあり得ね〜〜〜、って思いながらも、なんか気迫に圧されて納得してしまう、執念を感じる映画でした。

監督はイランの巨匠アミール・ナデリ。現在は彼は米国に移住してニューヨークに拠点を置いているそうです。製作はイタリア・フランス・アメリカ。舞台は中世のイタリア。ということでアジアの映画という括りに疑問を呈される方もおられるかもしれませんが、なんと言ってもアミール・ナデリはイラン人です。2019年の山形国際ドキュメンタリー映画祭のリアリティとリアリズム:イラン60s-80sで、「水、風、砂」(89)が上映され、監督本人も会場に来ておりました。

アミール・ナデリ監督の後頭部(笑)。山形国際ドキュメンタリー映画祭2019にて。


舞台は中世後期のイタリア。背後に山が聳える貧しい寒村が舞台で、そこに住む一つの家族が主人公。その村に住むものたちの痩せた耕作地は、壁のように聳える山に陽の光を遮られ、作物の生育もうまく行かない。その境遇のひどさ故差別の対象ともなっているこの村の人々は、居住地を捨て出ていくものも多い。しかし、主人公は彼らの説得にも耳を貸さず、先祖や亡き娘の墓があるこの地を離れようとしない。

貧困と差別という絶望的状況の中、主人公は全ての元凶である山に対峙し、山を倒すことを決意します。例えとしての「倒す」ではなく、文字通り山を本当に、ハンマーで倒す決意をします。そして驚愕のあり得ないラストを迎えるのです。

山をハンマーで壊す主人公。

もちろんこれは物理的に「山」を壊すことのみを目的として描写している訳ではないでしょう。「山」はメタファーです。では一体主人公がぶち壊したいものはなんでしょう。恐らくそれは自身の置かれた絶望的な境遇であり、理不尽な差別であり、それら全てを成さしめる人間の愚かさに違いありません。だから実際に「山」がハンマーで壊れるなんてことはどう考えてもあり得ません(笑)が、それらを打ち破ることの象徴として、結果的に沈鬱な映画にカタルシスをもたらします。それはイランにおける映画表現の不自由さという、理不尽な制約をも信念を持って打ち破っていこうという監督の決意でもあるのでは、というのはまあ考え過ぎですかね。

第73回ヴェネツィア国際映画祭で「監督・ばんざい!賞」、第17回東京フィルメックス 特別招待作品。


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